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新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (1) 2020 Recovery Rebate

今日、2020年3月27日、トランプ大統領の署名をもって成立したCARES Act。新型コロナウイルスの影響で事業継続に支障が出ている雇用主に対する雇用継続援助、解雇されたりレイオフされた従業員に対する失業保険の拡充、貸付を通じた事業主の流動性の確保、深刻な打撃を被っている産業に対する公的支援、医学・ワクチン・医療機器分野に対する集中投資、等、税務以外の複雑な救済策が山盛り規定されている。各産業やそのロビイスト、またどの州が効果的にDCの議員に働きかけて支援を取り付けたか、という角度からの分析はかなり興味深いんだけど、それらは他のメディアや専門家に任せておくとして、今回からCARES Actの税務関連規定を簡単に見てみたい。

NOLや163(j)だけでも結構面白い検討になるんだけど、まずは一般的にCARES Actの目玉規定と言われている「現金支給」に関して。実は2日前にGrassleyが税務規定の概要シートを公開した際に速報した「新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview」時点では、測り知れなかった詳細が法文には規定されている。法律だから当然だけどね。Grassleyの概要を読んだ際に、2008年のブッシュ還付小切手と異なり、今回は2020年の個人所得税申告書で、受取額をクレジットしたり調整したりする面倒がなさそうでよかった、みたいなコメントをしたんだけど、そんな楽観は大間違いだったので愕然。やっぱり今回も還付前払いという位置づけになっている。まさしくブッシュ還付小切手再来だ。個人所得税の作成を担当する者、特に非居住者だったり、昨年は未だ米国に赴任してなかったりする納税者の申告書作成担当者は誰がいくらの小切手受け取ったのか、とかトラッキングするの大変なんだよね。1040チームお疲れ様です、って感じ。

で、「2020 Recovery Rebate」と名付けられたこの規定。基本的には2020年所得税に対する税額控除という形で支給というのが法的な骨子。2020年課税年度の税金に対する税額控除だから、申告書を出すのは2021年4月15日。ただし、当税額控除を後述の前払還付という形で受け取る者は、この税額控除を減額するが、当減額はゼロを下限にするということになっている。つまり大概のケースでは近々に入金される前払還付を受け取ることで、2020年の申告時の税額控除はなくなるということになる。また税額控除の減額はゼロを下限とすることから、前払還付または2020年に計上できる税額控除のいずれか高い方の恩典を享受できることになる。例えば2020年に所得がなくても、条件次第では税額控除の恩典を享受することが可能となる。

2020 Recovery Rebateを受け取る権利がある「適格個人」は、米国市民または米国居住者で、他の納税者により扶養家族と取り扱われていない者。米国居住者というのは連邦税法上の定義に基づくので、グリーンカード所有者、または3年間の米国滞在日数の加重合計に基づく物理的テストを充足する者となる。一義的には2020年の税額控除の話しなので、2020年に居住者であれば、2019年以前の居住ステータス如何にかかわりなく受給権が生じるように見える。また2020年には非居住者になってしまっているのでもはや適格個人でなくても、後述の前払還付は2018年や2019年の情報に基づいて交付されるので、その場合には貰い得(?)になる設計のように読める。

さらに、2020年に初めて米国通年居住者になる例は法律の適用に不明な点はないとして、税務上、居住期間と非居住期間が存在するDual Status申告書の場合はどうなるんだろうか。2020 Recovery Rebateの法律上の位置づけは税法のSubchapter AのPart IV、Subpart Cに属することから、2020年に居住期間が存在すれば、Dual Statusでも適格に見える。米国に年の後半に赴任してきて、税務上は年間を通じて非居住者となっている場合には不適格だろうから、そうなるとSection 7701(b)(4)のFirst Year Electionの要件を充足してれば、ElectionするとDual Statusに生まれ変わるから、急に適格となる。さらに配偶者が日本にそのまま滞在しているケースでは、米国に居る当人がFirst Year Electionをした上で、または日数テストで年の後半居住者になるのであれば、Section 6013(g)選択をすることで配偶者分まで受け取れることになる?配偶者にSSNがなくITINの場合にはどうなるんだろう。Grassleyのシートには「就労権を有するSSN所有者」と読める条件が挙げられていたけど、法文はあくまでも米国市民と居住者となっている。

このように、クロスボーダー絡みの所得税に係わる適用は、普通の米国市民と異なり、追加検討が多いけど、$1,200のためにフライング気味に変な選択して、本来であれば米国で非課税の外国源泉所得とかが全世界課税になって、FTCでその障害を取り除けないとか、$1,200以上のダメージを被る本末転倒な話しとならないようにね。

$500の対象となる適格子女は、納税者と年の半分超同居し、生活費の半分超を子女本人が自己負担していない16歳以下の米国市民または米国居住者。

また、この手の規定に付き物と言えるフェーズアウト規定があり、AGIと言われる特定の費用を総所得から差し引いた金額が$75,000(単身)$112,500(Head of Household)、$150,000(夫婦合算)を超える場合には、支給額は超過額の5%相当額が減額される。$1,200を5%で割ると$24,000だから、単身の場合は$99,000、夫婦合算の場合は$174,000のAGIがあると恩典はないという計算となる。

で、2020年の税額控除だと、2020年申告書提出時に対象額分の減税があったような形になるけど、それは来年の今頃の話しなので新型コロナウイルス対策としては意味がなく、そこで当規定の神髄と言える「前払還付」フィーチャーが登場する。誰にいくら前払いするか、っていうのは2019年の所得税確定申告書を参照して決める。法的には、2019年に今回規定される2020 Recovery Rebate規定が存在したとしたら、受け取ることができたであろう税額控除額を2019年のみなし追加納付額と取り扱う。結果として2019年に過去訴求する形で過払いが生じ財務省が速やかに無金利で前払還付として支払う、という複雑な設計。還付が原則だけど、未払税金がある場合には相殺すると規定されているように見える。また、ブッシュの前払小切手と異なり、2018年または2019年の申告書上で納税者が振込用の銀行口座情報を特定している場合には、還付は電子送金で行われるそうだ。大丈夫かな。

さらに、2019年に申告書を提出していない納税者に関しては、代わりに2018年の所得税確定申告を参照してくれるそうだ。2018年も申告書を提出していない納税者に関しては、社会保障ベネフィット支払額報告書(様式SSA-1099)または鉄道従業員退職年金ベネフィット支払額報告書(様式RRB-1099)を参照して同様の処理を行ってくれる。これで、公的年金生活で申告書を出していない方にも速やかに還付が入金されるということになる。 なかなかよく考えてあるけど、結構複雑だ。

また、前払還付を受け取ったにもかかわらず、2020年の申告書で税額控除を減額していないケース、すなわち二重取りのケースは、「単なる計算間違い」という範疇で処理されると規定されており、その場合にはIRSからの最初の通知をもって更正通知同様の扱いとなる。財務省側の記録では支給したことになってるけど、実際には受け取ってないとか、受け取ったけど忘れてしまったとか、申告書作成時の確認作業は結構負荷が高い。

ということで、たかが現金給付、されど現金給付という感じでした。