前回は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (2) NOL」で、CARES Actに規定されるNOL使用制限緩和に触れた。80%の制限適用を一時停止し、繰り戻しを限定的に5年間認める、というもので、その骨子は比較的容易に理解できる。だけど、TCJAで元々NOL規定そのものが過渡期の状態にあったにもかかわらず、今回のCARES Actの登場でいきなりTCJAの規定がオーバーライドされてしまったのがCARES Actの規定が複雑な一因。また、元々の法文がイマイチだったので、TCJAの法文修正、すなわちTechnical Correction、を同時に手当している点も難解にしている。
例えば、元々のTCJAで規定されている法律施行日、Effective Date、を法文修正でアップデートしてる部分があるんだけど、TCJAのオリジナル法文では、80%所得制限は「2018年1月1日以降に開始する課税年度に適用」とだけ規定されていた。このオリジナル法文に加え、Technical Correctionでは「2018年1月1日以降の課税年度に発生するNOLが2017年12月31日以前の課税年度に繰り戻される際にも適用」と追記している。でもこれは、2017年12月22日にタイムトリップしたら、そう記載されるべきだったという話しで、CARES Actによる80%所得制限の適用停止により、別の部分でオーバーライドされる。結果として最終的にはCARES Actの新規定がルールになるんだけど、よく読まないと異なる取り扱いが並列して規定されているので不思議な規定に見え兼ねない。
で、NOLの話しはこれくらいにして、今日のテーマのSection 163(j)だけど、これもTCJAで導入された新法で、事業活動にかかわるネット支払利息は、他の税法の条件を充たして損金算入できる場合も「修正後課税所得(ATI)の30%」と「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内でのみ損金算入を認めるというもの。ATIはNOL適用前の当期課税所得にネット支払利息、199A(特定要件下で個人パススルーオーナーや個人事業主に認められる20%想定控除)、償却費用控除額を加算し直した金額。償却に関しては2022年1月1日以降に開始する課税年度からは加算対象から除外される。
2021年までは償却費用を加算できるので、枠が大きくてグッドニュースだけど、ATI算定時に加算対象とすることができる償却は順当な解釈的にはCOGSに資産計上されていないSG&Aの償却費用のみ。これは規則草案では明確にそう規定されている点だけど、草案自体には法的効果はない。なので規則がそのまま最終化されるまでは加算しても問題ない、というのは若干短絡的というか、あわてんぼうのサンタクロースだ。なぜかと言うと、この解釈は財務省規則の話しではなく、議会が制定したSection 163(j)の法文そのもので、加算対象と認められる償却費用は「any deduction allowable for depreciation, amortization, or depletion」に限定されているからだ。類似した考え方に、BEATを適用する際、COGSに資産計上するロイヤルティ等の費用は税法上は「Deduction」じゃないから、外国関連者に支払っているとしてもBase Erosion Paymentにはならない、という主張がある。これは今では公式見解となってるけど、Section 163(j)のAITの算定時も、COGSに資産計上される償却費は「Deduction」ではないので、加算対象としてはいけない、という財務省側の法文解釈は財務省が無理な主張をしているのではなく、法文を忠実に適用しているだけの話しで、かなり妥当なもの。Section 163(j)の規則が最終化される際に、財務省が法文をクリエーティブに解釈し直してくれて、この点にかかわる助け舟を出すことができるか興味深い。ただ、現時点で覚えておかないといけないのは、財務省規則草案がそう言ってるから加算できないのではなく、法律そのものの解釈として加算はできないという解釈が正しいのではないか、ということ。異論というか法文に異なる解釈を試みるケースはあり得るとは思うけど、決してSlum Dunkではないからね。
そんなSection 163(j)だけど、CARES Actでは,他の多くの規定同様、事業者の流動性確保目的で支払利息の損金算入制限を一時的に緩和している。法文によると、暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、「修正後課税所得(ATI)の30%ではなく50%」および「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内で損金算入が認められる。面白いことに納税者が50%を希望しない場合には、自らの選択で30%の適用が可能となる。なぜそんな不利な選択を・・・?と思われるかもしれないけど、TCJAの適用が複雑なのは、一つの制限に有利な取り扱いも他の取り扱いとの関連で総合的に考えないと不利になることもあるっていう点。
さらにSection 163(j)を複雑怪奇な規定としているのは、支払利息損金算入制限をパートナーシップレベルにも適用してる点。パートナーシップはパススルーで、他にも事業主体同様に取り扱われるケースもあるけど、原則はパートナーの集合体っていうのが一般的な位置付け。にもかかわらずSection 163(j)は、支払利息をパートナーにパススルーしてパートナーレベルで損金算入可否を判断するのではなく、パートナーシップレベルでいきなりこの判断をさせる。しかも、一旦パートナーシップで損金算入可否を判断し、損金不算入の支払利息が生じる場合には、当不算入額をパートナーシップが繰り越すのではなく、毎期各パートナーに配賦する。パートナーに配賦された不算入額が、翌年から単純に各パートナーの他の支払利息と同様に取り扱われて各々の制限枠内で使用できれば、それでもまだ簡単なんだけど、実際にはそうではなく不算入額が各パートナーに配賦された後、翌年以降に同パートナーシップ側で余剰枠(ETI)が存在する場合に、そのETIを各パートナーに配賦し、パートナー側ではETIの範囲で過去に配賦された損金不算入額を「リリース」する。リリースされて初めて、パートナーは自ら認識する他の支払利息同様に取り扱うことができる。すなわち、そうなって初めて制限枠と比較したりするゲームに参加できることになる。それまでは静かに「ベンチで待機」してるようなイメージ。
で、CARES Actではパートナーシップに特別というか、クリエーティブな規定を設けていて、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用しない。すなわち、従来通りATIの30%を使用して制限枠を算定することになる。30%制限に基づきパートナーシップレベルで損金算入制限が生じる場合は、通常のルール通り、損金不算入額が各パートナーに配賦されるんだけど、配賦された後の取り扱いが変更されている。すなわち、パートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%は、パートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱われ、Section 163(j)の制限対象から除外される。なので50%は損金算入できることになる。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦されるETIに基づく通常のベンチ待機ルールに基づき損金算入の判断を行う。チョッと難しいけど、50%だけでもパートナー側で翌年に問答無用に損金算入できるのはいいね。何らかの理由でこの処理が好ましくない場合には、パートナー側で当処理の不適用を選択することができる。不適用を選択する場合、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しても通常のベンチ待機ルールが適用されることになる。また、暦年2020年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しては、ATIの50%に基づく損金算入制限枠を計算することになる、と読める。
さらに、暦年2020年中に開始する課税年度は、当年度のATIの代わりに前年、すなわち暦年2019年中に開始する課税年度、のATIを使用する選択が認められる。背景としては、2020年に開始する課税年度は新型コロナウイルスの影響で業績がより落ち込む可能性があり、その場合にはATIが小さいとか、存在しないとかの理由で多くの支払利息が損金算入制限に抵触する。その場合には前年の比較的高いATIを基に損金算入額を計算することが認められる。パートナーシップにも前年ATIの適用を選択することが認められるけど、当選択は各パートナーではなく、パートナーシップレベルで行う。また、暦年2020年中に開始する課税年度が12カ月未満のShort Yearの場合、2019年のATIも同期間に対応するよう按分して使用する。
という訳で今日はCARES ActによるSection 163(j)改定でした。
例えば、元々のTCJAで規定されている法律施行日、Effective Date、を法文修正でアップデートしてる部分があるんだけど、TCJAのオリジナル法文では、80%所得制限は「2018年1月1日以降に開始する課税年度に適用」とだけ規定されていた。このオリジナル法文に加え、Technical Correctionでは「2018年1月1日以降の課税年度に発生するNOLが2017年12月31日以前の課税年度に繰り戻される際にも適用」と追記している。でもこれは、2017年12月22日にタイムトリップしたら、そう記載されるべきだったという話しで、CARES Actによる80%所得制限の適用停止により、別の部分でオーバーライドされる。結果として最終的にはCARES Actの新規定がルールになるんだけど、よく読まないと異なる取り扱いが並列して規定されているので不思議な規定に見え兼ねない。
で、NOLの話しはこれくらいにして、今日のテーマのSection 163(j)だけど、これもTCJAで導入された新法で、事業活動にかかわるネット支払利息は、他の税法の条件を充たして損金算入できる場合も「修正後課税所得(ATI)の30%」と「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内でのみ損金算入を認めるというもの。ATIはNOL適用前の当期課税所得にネット支払利息、199A(特定要件下で個人パススルーオーナーや個人事業主に認められる20%想定控除)、償却費用控除額を加算し直した金額。償却に関しては2022年1月1日以降に開始する課税年度からは加算対象から除外される。
2021年までは償却費用を加算できるので、枠が大きくてグッドニュースだけど、ATI算定時に加算対象とすることができる償却は順当な解釈的にはCOGSに資産計上されていないSG&Aの償却費用のみ。これは規則草案では明確にそう規定されている点だけど、草案自体には法的効果はない。なので規則がそのまま最終化されるまでは加算しても問題ない、というのは若干短絡的というか、あわてんぼうのサンタクロースだ。なぜかと言うと、この解釈は財務省規則の話しではなく、議会が制定したSection 163(j)の法文そのもので、加算対象と認められる償却費用は「any deduction allowable for depreciation, amortization, or depletion」に限定されているからだ。類似した考え方に、BEATを適用する際、COGSに資産計上するロイヤルティ等の費用は税法上は「Deduction」じゃないから、外国関連者に支払っているとしてもBase Erosion Paymentにはならない、という主張がある。これは今では公式見解となってるけど、Section 163(j)のAITの算定時も、COGSに資産計上される償却費は「Deduction」ではないので、加算対象としてはいけない、という財務省側の法文解釈は財務省が無理な主張をしているのではなく、法文を忠実に適用しているだけの話しで、かなり妥当なもの。Section 163(j)の規則が最終化される際に、財務省が法文をクリエーティブに解釈し直してくれて、この点にかかわる助け舟を出すことができるか興味深い。ただ、現時点で覚えておかないといけないのは、財務省規則草案がそう言ってるから加算できないのではなく、法律そのものの解釈として加算はできないという解釈が正しいのではないか、ということ。異論というか法文に異なる解釈を試みるケースはあり得るとは思うけど、決してSlum Dunkではないからね。
そんなSection 163(j)だけど、CARES Actでは,他の多くの規定同様、事業者の流動性確保目的で支払利息の損金算入制限を一時的に緩和している。法文によると、暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、「修正後課税所得(ATI)の30%ではなく50%」および「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内で損金算入が認められる。面白いことに納税者が50%を希望しない場合には、自らの選択で30%の適用が可能となる。なぜそんな不利な選択を・・・?と思われるかもしれないけど、TCJAの適用が複雑なのは、一つの制限に有利な取り扱いも他の取り扱いとの関連で総合的に考えないと不利になることもあるっていう点。
さらにSection 163(j)を複雑怪奇な規定としているのは、支払利息損金算入制限をパートナーシップレベルにも適用してる点。パートナーシップはパススルーで、他にも事業主体同様に取り扱われるケースもあるけど、原則はパートナーの集合体っていうのが一般的な位置付け。にもかかわらずSection 163(j)は、支払利息をパートナーにパススルーしてパートナーレベルで損金算入可否を判断するのではなく、パートナーシップレベルでいきなりこの判断をさせる。しかも、一旦パートナーシップで損金算入可否を判断し、損金不算入の支払利息が生じる場合には、当不算入額をパートナーシップが繰り越すのではなく、毎期各パートナーに配賦する。パートナーに配賦された不算入額が、翌年から単純に各パートナーの他の支払利息と同様に取り扱われて各々の制限枠内で使用できれば、それでもまだ簡単なんだけど、実際にはそうではなく不算入額が各パートナーに配賦された後、翌年以降に同パートナーシップ側で余剰枠(ETI)が存在する場合に、そのETIを各パートナーに配賦し、パートナー側ではETIの範囲で過去に配賦された損金不算入額を「リリース」する。リリースされて初めて、パートナーは自ら認識する他の支払利息同様に取り扱うことができる。すなわち、そうなって初めて制限枠と比較したりするゲームに参加できることになる。それまでは静かに「ベンチで待機」してるようなイメージ。
で、CARES Actではパートナーシップに特別というか、クリエーティブな規定を設けていて、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用しない。すなわち、従来通りATIの30%を使用して制限枠を算定することになる。30%制限に基づきパートナーシップレベルで損金算入制限が生じる場合は、通常のルール通り、損金不算入額が各パートナーに配賦されるんだけど、配賦された後の取り扱いが変更されている。すなわち、パートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%は、パートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱われ、Section 163(j)の制限対象から除外される。なので50%は損金算入できることになる。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦されるETIに基づく通常のベンチ待機ルールに基づき損金算入の判断を行う。チョッと難しいけど、50%だけでもパートナー側で翌年に問答無用に損金算入できるのはいいね。何らかの理由でこの処理が好ましくない場合には、パートナー側で当処理の不適用を選択することができる。不適用を選択する場合、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しても通常のベンチ待機ルールが適用されることになる。また、暦年2020年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しては、ATIの50%に基づく損金算入制限枠を計算することになる、と読める。
さらに、暦年2020年中に開始する課税年度は、当年度のATIの代わりに前年、すなわち暦年2019年中に開始する課税年度、のATIを使用する選択が認められる。背景としては、2020年に開始する課税年度は新型コロナウイルスの影響で業績がより落ち込む可能性があり、その場合にはATIが小さいとか、存在しないとかの理由で多くの支払利息が損金算入制限に抵触する。その場合には前年の比較的高いATIを基に損金算入額を計算することが認められる。パートナーシップにも前年ATIの適用を選択することが認められるけど、当選択は各パートナーではなく、パートナーシップレベルで行う。また、暦年2020年中に開始する課税年度が12カ月未満のShort Yearの場合、2019年のATIも同期間に対応するよう按分して使用する。
という訳で今日はCARES ActによるSection 163(j)改定でした。
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