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新興国株のパラドックス

ポピー

「これからはやっぱりEmerging Markets(新興国)ですよ」

この頃の金融業界は、BRICを始め新興国株のETFやファンドを勧めるのに忙しい。

財政・金融政策の統制、市場自由化、ミドルクラスの拡大、輸出産業の成長、そういった好ましい条件を揃えたEmerging Marketsが目覚ましい経済成長を続けるだろういう期待は非常に高くなってきている。それらの国の株を薦める理由は

『高い経済成長を遂げるEmerging Marketsの株リターンはやはり高いに違いない』

という、中学生にも分かりそうな理屈だが、この理屈は実はまだデータで検証されていない。

少し古いけど、The Economist誌のButtonwoodコラムにこの課題に関する論争が簡単にまとめてあるので、興味ある方はどうぞ。

The Missing Link, Bottunwood Column, The Economist, May 19, 2011

ファイナンスの学者さん達が手を変え品を変えて新興国の経済成長率(%GDP Growth)とその国の株式リターンのデータを調べているのものの、プラスの相関関係は中々出てこない。実際の結果は反対で、経済成長率の低い国の方が株リターンが高くなる傾向がある。このネガティブの関係は、データに先進国を加えても、また先進国の中だけで調べても同じ。コレは妙ダゾ。

(個別株を見れば勝ち組も見つかるんだろうけど、これはその国の株市場全体を見た時の話。)

学者さん達は妙なことで悩むもんだと思うけれど、コレは確かに謎。こういうパラドックスってやっぱり気に掛かるじゃないですか。

もちろん、データから都合の悪い国や時期をバッサバッサ削って無理やりプラスの相関関係も出すことも可能だが、それでは一般論の検証にはならない。

なぜ新興国の高い経済成長率が株の高リターンにつながらないか、Buttonwoodは次のような可能性の説明を挙げている。

1.株式はあくまでは先行指標。純粋に新しい情報のみに反応して動く。経済成長率はそれが発表される頃には過去についてのニュースで、未来についてのはわずかしか含まれていないため、それで株リターンを予測するのは難しい。例えばある国が高経済成長率を達成することを皆が皆確信しているなら、それが実現しても、新しい情報は何も生まれない。よってその国の株価もそのニュースには反応しない。

(株リターンに先行する指標があって、それで投資先の国を選べればそれがベスト。でも、そんな指標があったら誰も株投資に苦労しないよね。)

2.経済成長率の高い国にはたちまち海外資本が群集行動的に株市場に流入し、非常に割高になるまで株価を押し上げてしまう。いずれは株価が下がりリターンも落ちる。

3.経済成長は必ずしも株価には反映されない。新興国の一番有望・急成長・巨大規模の企業は上場されていないことも多い(国営・家族経営等)。

4.上場された会社も成長にするにつれ公募(株式)増資を重ねるために、昔からの株主のリターンはどんどん希釈されてしまう。

1, 2, 4は、先進国でも経済・企業の成長が必ずしも株のリターンにつながらない説明としても使えそうだが、2,4は新興国でより極端になるのかな?いずれにしても、このパラドックスがきちんと説明された訳ではなく、なんとなくモヤモヤ感が残る。まだ、分からない部分がたくさんあるということなのだろう。

私も新興国ファンドのようなものを10年程持っているが、半額になり、4倍になり、3分の1になり、また3倍になりと非常に忙しい。これは、Boom/Bust Cycleを延々と繰り返すものなんだとある程度割り切って、あまり深いことは考えずにちゃっちゃとリバランスだけしている。

新興国株投資に熱心な人達は"This time is different(今度は違うんだよ)"と言っているけど、これもいつかどこかで聞いたような台詞だよね。

p.s. 昨日のWSJにも同じテーマの記事が出てました。
5 Myths About Emerging Markets

こちらはいくつかのファンドの宣伝みたいな記事なので御注意。

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