保険の考え方
保険とは何らかの損害があった場合、その損害に対してお金で補償してくれる仕組みです。損害に対してお金を払うだけで、損害そのものを防ぐ事とは違う点を認識する事が大切です。
例えば、家に保険を掛けておき、火事で家を失った場合、給付金をもらうことによって家を建て直すことができます。つまり、家がなくなるという損害に対して、お金でできることをしてくれるのです。しかし、火事そのものを防ぐ事はしてくれません。火事を防ぐには火の始末に気をつけたり、電気の配線を検査したり、放火を誘発するような燃えやすいものを外に置かない、など予防策が必要になります。失った物品はお金で直すことが出来ますが、精神的な負担な負担もあります。燃えてしまった思い出の品は同じ物は手に入りません。保険はあくまで金銭的な補償に過ぎないことを忘れないようにしましょう。
リスクの要素
絶対に安全と分かっているのであれば、保険を掛ける必要はありません。しかし、人が生きている限り、絶対に安全な事はありえません。では、何にでもいくらでも保険を掛ければ良いという訳でもありません。
リスクの度合に応じて保険を掛ける必要があります。
確率
リスクは2つの要素で成り立っていると考えられます。1つはどのくらいの頻度で危険が実際に起こるかです。危険に遭遇する
確率と言っていいでしょう。確率の例としては家が火事になる確率、交通事故に遭う確率、理由に寄らず死亡する確率などです。これらの確率は個人に対して確率があるわけではなく、誰に起こるか分からない、しかし統計的にはほぼ確実に一定割合で起こると分かっているものです。交通事故は誰に起こるか分かりませんが、毎年100万人当り何人が死亡する、という数字は大きく変わらないため、ほぼ確実に起こることが予想できます。しかし自分にそれが起こるかどうかは分からないので、保険を掛けておくのです。
規模
リスクのもう1つの要素には、その危険が起こった場合、どの程度の損害が発生するかと言う度合、あるいは規模があります。例えば死亡してしまうということは、いくら確率が低くても、それが発生してしまえば大きな損害と言えるでしょう。それに対して、持ち物がなくなることは、死亡するよりも高い頻度で起こりますが、損害はその持ち物の価値や、無い事による不便などで、死亡するよりも程度は低いと言えます。
リスクを考えるとき、確率と同時に、その損害が発生したら、どの程度の規模なのかも考える事が重要です。
保険を掛けるかどうか
リスクを確率と規模で考えるようにすれば、保険をどんなものに掛けたらいいか、考えやすくなります。
保険を掛けるべきもの
保険が必要になるのは、損害が発生したときに規模が大きいものです。一番の例は死亡してしまう場合でしょう。その人が家計で重要な役割を担っていた場合、その人の収入が無ければ残された家族の生活まで悲惨なものになってしまいます。その人が死亡することだけでも家族にとっては十分悲惨なものなのですから、せめて経済的には悲惨にならないようにしておくのが思いやりと言うものでしょう。また、自分や家族に危害が加わらなくても経済的に大きな損害になる場合も、規模が大きいと考えます。一番の例は損害賠償でしょう。何らかの過失で人に怪我をさせてしまい、障害を負うことになった場合、医療費や精神的な被害、失った収入の代償として多大な金額を払わなければならないこともありえます。
このような危険は確率から言えば低いと言えます。しかし、万が一であっても起こってしまっては大変です。リスクが低くても規模が大きい損害は必ず保険を掛ける必要があります。
それほど規模が大きくなく、自分の一生に関わるようなものではなくても、損害が発生すると経済的に打撃が大きい場合も保険を掛けておくべきでしょう。例えば3万ドルの車が盗難された場合、賠償責任も人への危害もなく、自分の一生がおかしくなることもありません。しかし経済的な打撃はかなり大きいものと言えます。また盗まれてしまったと言う精神的なダメージもあるでしょう。しかも、車が盗難されたり、自損を含む事故で損害を受ける確率は高いと言えます。このような場合も保険を掛けるべきといえます。
保険を掛けなくていいもの
損害が発生しても、その規模が小さい場合は保険を掛けずに、損害が発生したらあきらめる方がよいものがあります。例えば電気量販店で勧められるExtended Warranty(
延長保証)は、少額の電気製品の場合、故障や盗難でなくなったとしても、あきらめれば済みます
*1。
また、車を擦ってしまった場合の簡単な板金修理なども、自分の普段のお金から出せる範囲であれば、わざわざ保険を掛けておく必要もないでしょう。そういった場合、自動車保険の免責額を設定します。例えば$500までの損害は自腹を切ることにすれば、保険額も安くなり、少額の損害のときにいちいち書類を保険会社に出すなどの手間も無くなります。
保険金額の決め方
保険で補償されるものは、保険対象の金銭的な価値といえます。補償されるものが物品の場合には、金銭的な価値には2つの種類があります。市場価値(Market ValueもしくはDepreciated Value)と新品を買った場合の価値(Replacement Cost)です。車であれば、失った時点でのその車の市場価値に応じて支給される給付金が決まります。また、自分の所有物であれば、市場価値の場合も、新品の価値の場合もあります
*2。
生命保険などの場合、保険を掛ける人の金銭的価値で保険を掛けるわけではなく、残された家族の生活を守るのが目的です。そのため、その人の資産状況や家族構成などで保険金が決まってきます。例えば、配偶者と子供がいる場合、残された家族が困らないだけの保険を掛けておくべきでしょう。かといって、保険金が多ければよいというものでもありません。保険料が高くなりますし、残された配偶者が何もしなくても今よりも贅沢に暮らせるようにしておく必要はないといえるからです。
賠償責任では補償金額を決めるのはさらに難しくなります。これは損害を被るのが自分ではなく、被害者になるからです。この場合、自分の資産、将来の分も含めた収入、道義的な責任感などの要素で金額を決めることになります。賠償金額が保険で支払われない場合、自分の資産や、将来の収入を失うことになりかねません。そのため、十分な保険金額が必要となります。賠償責任を払いきれなければ自己破産することもあります。自己破産した場合、自分が困るだけでなく、被害者も十分な補償を受けられないと言う問題となります。このような場合、守らなければいけない資産や収入が少なくても、社会道義上、ある程度の保険を掛けておきたいと思う人も多いでしょう。
このように補償されるものの種類によって保険金額は違ってきます。以降の章で保険の内容に応じた金額のガイドラインを示していきます。