保証料の源泉地がどこかという問題に関してIRSは長い期間苦労に苦労を重ねて戦ってきた。
日本企業の米国子会社が米国に金融機関から借入をする場合、多くのケースで日本親会社が保証を差し入れる。米国子会社側に十分な与信枠がないケースもあるし、与信枠があっても親会社の保証を入れることでより有利な条件での借入が可能になることが多い。
保証というのは当然価値のある行為であることから、第三者に無償で保証を差し入れることはない。にも係らず子会社から保証に対して何の対価も受け取らないと、保証をしている国で移転価格問題とされることがある。無償で子会社に価値を提供しているからだ。一方で、保証料を支払うとなると今度はその保証料に対する源泉税の取り扱いが気になる。
*IRSの主張
IRSには古くから保証料の源泉地は「利息同様」に借り手の居住地を基に決定するべきという持論がある。この持論に基づくと、日本親会社が米国子会社に対して保証を差し入れている、すなわち米国子会社が日本親会社に保証料を支払っているという局面では、保証料は米国源泉所得となる。となると米国で30%源泉税の対象となる。
僕も実際に90年代中盤のIRS税務調査でそのような主張を展開された経験がある。しかも、利息同様に源泉地を決定するべきと言っておきながら、当時のIRSの内部アドバイスによると実際には利息ではないので利息に適用される租税条約上の低減税率は認められないというのだった。
これは「旧」日米租税条約の時代の話だ。何とか保証料を事業所得と位置づけてPE規定で逃げようとしたりいろいろと試みたが最後は不服審査(Appeal)で手を打つしかなかった。
*「新」日米租税条約
2004年に日米租税条約が新しくなった際に、保証料の米国税務上の取り扱いに対する不確実性は取り除かれた。21条の「その他所得」規定に基づき、配当、利子、ロイヤリティー、給与等、租税条約の各条項で具体的に規定されている所得以外の所得(=その他所得)は、PE課税されない限り、その所得の受け手側のみで課税されることになったからだ。さらに丁寧に議定書で、保証料は受け手のみで課税と駄目押しまでしてくれていた。
*Containerケースと税法改正案
保証料は利息同様のコンセプトで源泉地を決定するべきというIRSの長期に亘る主張に対して、保証料は利息ではなくサービス提供に近いので保証料の源泉地はサービス提供している「保証している側の居住地」で決定するべきという意見も多かった。この点に関して法定で争われているケースがいくつかあるが、つい最近2010年2月にTax Courtで争われた「Container Corpケース」で裁判所は「保証料はサービス提供に準じる」として「源泉地は保証している側の居住地」にありとするのが妥当と判断した。このケースはメキシコ法人の米国子会社に対する保証に係る保証料に関しての争いであった。
これに業を煮やしたIRSはそれならば「条文法律変更」という文字通りの法的手段に出る。都合の悪い判例が出るようなら条文で引導を渡そうということだ。逆に言えばそんな簡単なことであれば税法なり財務省規則でさっさと規定してしまえば良かったような気がするが、今までは明確な規定がなく、多くの判例等を基に争われてきた。ようやくContainerケースの負けでムキになったIRSはClosing Tax Loopholes Actの中に改定案を盛り込んでいる。
IRSがなぜこの点に拘るかというと、源泉税を課すチャンスがなく、米国企業が保証料を外国に支払うと、保証料が法人税の計算上は費用化されることからEarnings Strippingの温床となるのではという懸念があるからだ。もちろん「世界一」の税率を誇る日本の親会社に保証料を支払うとグループ全体では余計な税金を支払うだけなのでEarnings Strippingとはならないが、カナダ企業とか日本企業グループでもヨーロッパとかアジアの子会社を利用した保証をすればEarnings Stripping効果を持つ。
という訳で法律改定案によると「貸付に係る保証料の源泉地は保証を受ける借り手の居住地で決まる」と明確に規定されることとなる。
*後法優先と日本企業への影響
普通に考えると租税条約というのは二国間で合意したものであるから内国法より優先するような気がするが、そうは簡単にいかないのが米国だ。憲法上「連邦法」と「租税条約」は同位にあるため、基本的には後にできた方が優先する(後法優先)。過去にも租税条約の恩典を後からできた米国内国法がOverrideしてしまったケースが存在する。
となると日米租税条約の議定書の効果も消滅してしまうのか、と思われる向きもあるかもしれない。しかし、個人的にはそれはないと思う。今回の法改正はあくまでの「保証料は米国源泉(米国子会社が日本から保証を受けているという場合)」としているだけで「源泉税の対象」と規定している訳ではない。
となると日米租税条約の21条の「その他所得規定」で「米国源泉だけど米国での課税(=源泉税)はなし」という規定がそのまま生きてくる。そもそも議定書の駄目押し確認も保証料は「米国源泉」という前提で読まなくては意味がない。米国源泉でなければそもそも米国に課税権がなく、租税条約とか議定書の登場を待つまでもなく米国では源泉税の対象とならないからだ。ということは今更、米国の内国法で「保証料は米国源泉!」と言われたとしても「で?」ということで終わるはずだ。そのロジックで行くと何も変わらない。
*それでも若干残る改定案の影響
上述の通り、もし改定案が最終的に法律となるとしても、日米間で保証料を受け取る場合には現行の取り扱いのままで良いものと思われる。一方、もし他国の子会社等を利用して保証を米国子会社に差し入れる場合にはその国と米国の租税条約を検討する必要がる。また日本企業でも恩典制限条項(LOB)が満たせてないケースで租税条約が利用できなかったりすると影響が出てくることもある。
なお、税法変更があったとしても過去の保証料の源泉地の決定には影響を持たないとされる。すなわち過去の保証料に関しては従来通り判例等に基づく判断をしていくことになる。
Closing Tax Loopholes Actに関して何回かポスティングを続けたが、次回はブッシュ政権の置き土産であり冗談にもならない混乱を引き起こしている「Bush減税の顛末- 2010減税失効の恐怖」に触れてみたい。
日本企業の米国子会社が米国に金融機関から借入をする場合、多くのケースで日本親会社が保証を差し入れる。米国子会社側に十分な与信枠がないケースもあるし、与信枠があっても親会社の保証を入れることでより有利な条件での借入が可能になることが多い。
保証というのは当然価値のある行為であることから、第三者に無償で保証を差し入れることはない。にも係らず子会社から保証に対して何の対価も受け取らないと、保証をしている国で移転価格問題とされることがある。無償で子会社に価値を提供しているからだ。一方で、保証料を支払うとなると今度はその保証料に対する源泉税の取り扱いが気になる。
*IRSの主張
IRSには古くから保証料の源泉地は「利息同様」に借り手の居住地を基に決定するべきという持論がある。この持論に基づくと、日本親会社が米国子会社に対して保証を差し入れている、すなわち米国子会社が日本親会社に保証料を支払っているという局面では、保証料は米国源泉所得となる。となると米国で30%源泉税の対象となる。
僕も実際に90年代中盤のIRS税務調査でそのような主張を展開された経験がある。しかも、利息同様に源泉地を決定するべきと言っておきながら、当時のIRSの内部アドバイスによると実際には利息ではないので利息に適用される租税条約上の低減税率は認められないというのだった。
これは「旧」日米租税条約の時代の話だ。何とか保証料を事業所得と位置づけてPE規定で逃げようとしたりいろいろと試みたが最後は不服審査(Appeal)で手を打つしかなかった。
*「新」日米租税条約
2004年に日米租税条約が新しくなった際に、保証料の米国税務上の取り扱いに対する不確実性は取り除かれた。21条の「その他所得」規定に基づき、配当、利子、ロイヤリティー、給与等、租税条約の各条項で具体的に規定されている所得以外の所得(=その他所得)は、PE課税されない限り、その所得の受け手側のみで課税されることになったからだ。さらに丁寧に議定書で、保証料は受け手のみで課税と駄目押しまでしてくれていた。
*Containerケースと税法改正案
保証料は利息同様のコンセプトで源泉地を決定するべきというIRSの長期に亘る主張に対して、保証料は利息ではなくサービス提供に近いので保証料の源泉地はサービス提供している「保証している側の居住地」で決定するべきという意見も多かった。この点に関して法定で争われているケースがいくつかあるが、つい最近2010年2月にTax Courtで争われた「Container Corpケース」で裁判所は「保証料はサービス提供に準じる」として「源泉地は保証している側の居住地」にありとするのが妥当と判断した。このケースはメキシコ法人の米国子会社に対する保証に係る保証料に関しての争いであった。
これに業を煮やしたIRSはそれならば「条文法律変更」という文字通りの法的手段に出る。都合の悪い判例が出るようなら条文で引導を渡そうということだ。逆に言えばそんな簡単なことであれば税法なり財務省規則でさっさと規定してしまえば良かったような気がするが、今までは明確な規定がなく、多くの判例等を基に争われてきた。ようやくContainerケースの負けでムキになったIRSはClosing Tax Loopholes Actの中に改定案を盛り込んでいる。
IRSがなぜこの点に拘るかというと、源泉税を課すチャンスがなく、米国企業が保証料を外国に支払うと、保証料が法人税の計算上は費用化されることからEarnings Strippingの温床となるのではという懸念があるからだ。もちろん「世界一」の税率を誇る日本の親会社に保証料を支払うとグループ全体では余計な税金を支払うだけなのでEarnings Strippingとはならないが、カナダ企業とか日本企業グループでもヨーロッパとかアジアの子会社を利用した保証をすればEarnings Stripping効果を持つ。
という訳で法律改定案によると「貸付に係る保証料の源泉地は保証を受ける借り手の居住地で決まる」と明確に規定されることとなる。
*後法優先と日本企業への影響
普通に考えると租税条約というのは二国間で合意したものであるから内国法より優先するような気がするが、そうは簡単にいかないのが米国だ。憲法上「連邦法」と「租税条約」は同位にあるため、基本的には後にできた方が優先する(後法優先)。過去にも租税条約の恩典を後からできた米国内国法がOverrideしてしまったケースが存在する。
となると日米租税条約の議定書の効果も消滅してしまうのか、と思われる向きもあるかもしれない。しかし、個人的にはそれはないと思う。今回の法改正はあくまでの「保証料は米国源泉(米国子会社が日本から保証を受けているという場合)」としているだけで「源泉税の対象」と規定している訳ではない。
となると日米租税条約の21条の「その他所得規定」で「米国源泉だけど米国での課税(=源泉税)はなし」という規定がそのまま生きてくる。そもそも議定書の駄目押し確認も保証料は「米国源泉」という前提で読まなくては意味がない。米国源泉でなければそもそも米国に課税権がなく、租税条約とか議定書の登場を待つまでもなく米国では源泉税の対象とならないからだ。ということは今更、米国の内国法で「保証料は米国源泉!」と言われたとしても「で?」ということで終わるはずだ。そのロジックで行くと何も変わらない。
*それでも若干残る改定案の影響
上述の通り、もし改定案が最終的に法律となるとしても、日米間で保証料を受け取る場合には現行の取り扱いのままで良いものと思われる。一方、もし他国の子会社等を利用して保証を米国子会社に差し入れる場合にはその国と米国の租税条約を検討する必要がる。また日本企業でも恩典制限条項(LOB)が満たせてないケースで租税条約が利用できなかったりすると影響が出てくることもある。
なお、税法変更があったとしても過去の保証料の源泉地の決定には影響を持たないとされる。すなわち過去の保証料に関しては従来通り判例等に基づく判断をしていくことになる。
Closing Tax Loopholes Actに関して何回かポスティングを続けたが、次回はブッシュ政権の置き土産であり冗談にもならない混乱を引き起こしている「Bush減税の顛末- 2010減税失効の恐怖」に触れてみたい。
このブログ記事の配信元:
コメントを追加