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ついに米国もテリトリアル課税に(?)

Max Hata
明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。

という訳で2011年は超多忙の中アッという間に終わってしまった。米国税務の話しに限れば数々の新しい税法が発表され、そういう意味では面白い年ではあったが、一方で日本では震災があったり、神殿で聖なるイメージのギリシャ経済が崩壊してユーロが危機に陥ったりといろいろと考えさせられることも多かった。ドイツの信用力でお金を借りて返せなくなってしまったギリシャとか、準備通貨(Reserve Currency)を印刷できるのをいいことに相変わらず身の丈に合わないライフスタイルを続ける米国とか、せっかく毎年Million Miles乗ってあげているのに破産法の下に入ってしまったアメリカン航空の今後とか、30日以上晴天続きで雪が少ないマンモススキー上のリフト券がRFIDになってクレジットカードのようだったとか、タックス以外のことで書きたいことも沢山あるがきりがないので今年も大人しく(?)米国タックスの話しをしていくことにする。

2011年後半で一番興味深かった出来事と言えばついに米国が「テリトリアル化」に一歩近づいたことだろう。テリトリアル課税という用語は、全世界課税の反対語として使われるもので、海外の子会社等からの配当を非課税とする制度を意味する。米国は中国と並び未だに世界でも残り少ない全世界課税システムを維持している国だ。ここで言う全世界課税とは、外国子会社からの配当を受け手で課税する(または一定の所得は配当を待たずにみなし配当課税する)という意味で、日本が2009年3月まで使っていた制度だ。ここ何年かの間に日本、イギリス等が相次いでテリトリアル化したことからも分かる通り、世界の潮流はテリトリアルだ。

しかし、そこはUnited States of America、9,000とも言われる核弾頭(未使用のまま廃棄準備に入っているものを含む)を自らは保有しながら他国が1つでも同じものを持とうとすると徹底的に制裁を加えるという独自の正義感からか、頑なに全世界課税を守ってきた。とは言え、押し寄せる時代の波には勝てず、どうせ米国もいずれかはテリトリアルになるじゃん、と思われていたが、そのタイミング、実行法に関しては憶測の域を出なかった。

そこに昨年の10月26日突然Ways and Means Committeeという米国税法の世界では超権威のある下院歳入委員会が米国版テリトリアル課税の大枠をドラフトとして公表したことで「ついに・・・」と米国テリトリアル化が一気に現実味を帯びてきたのだ。しかも、このドラフト、税法の文言そのものまで盛り込んであるという気合の入っているものだ。

以前のポスティングでも散々触れている通り、米国多国籍企業は米国外に巨額の埋蔵金を溜め込んでいる。そのお金をタダで(=米国の法人税を払わずにという意味)米国に持って返りたくてしょうがない米国企業は「2004年にやったみたいにもう一度だけ外国子会社の配当を非課税とする特殊時限立法を可決して欲しい」とキャンディーをねだる子供のようにロビー活動を繰り返してきた。議会は2004年の経験(濫用されまくった)で懲り懲りなので金輪際そんなことはしない、と突っぱねてきたが、ここに来て突然、一度だけではなく、未来永劫これからは外国子会社からの配当は非課税にしてあげましょう、と夢のような提案がされた。

さぞかし米国企業は大喜びだろうと思われるかもしれないが、実は米国版テリトリアル課税にはいろいろな「おまけ」がついていて、これがなかなかの曲者揃いだ。後で詳しく触れるが、おまけ規定の中で最も迫力があるのはテリトリアル課税となる際の「移行措置」だ。日本が2009年4月にテリトリアル化した際には、適用は基本的にきれいな「カットオフ」だった。すなわち、規定が適用された翌日に海外子会社から配当を受け取ったとすると基本的に非課税となった。一方で規定が施行される前日に配当を受け取った日本親会社があったとすると当然全額課税となることから、テリトリアル課税の施行前後で取り扱い全く異なった。

一方で米国バージョンはどうかと言うと、ナンと制度移行の際に、外国子会社の所得「全額」を「みなし配当」があったとして課税するという措置が規定されていたのだ。みなし配当なので実際に配当するかどうかは関係ない。みなし配当に適用される税率は特別に低いレートが規定されているが、今まで配当さへしなければ米国では課税されなかったことから米国外に大事に貯めてきた埋蔵金が一気に課税所得になってしまうということだ。凄い規定だ。ただ、それもそのはずで米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となる。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。受け取る側で税収が減らないということは、イコール支払う側ではトータルでは税負担は変わらないということだ。ゼロサムゲームとなることから納税者の中には勝者と敗者が出てくることとなる。

次回からのポスティングではこの米国テリトリアル課税案の全容を紐解いて行きたい。
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