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High-Beta Rich

ポピー

The High-Beta Rich: How the Manic Wealthy Will Take Us to the Next Boom, Bubble and Bust、by Robert Frank.

ファイナンスではBeta値(β)はリスクを測る数値で、ポートフォーリオや個別株が株相場に同調してどれぐらい変動するかを表す。ベータ値が高いポートフォーリオは、価値の上下が激しくリスクが高い。

この本の題High-Beta Richというのは、株市場や景気と一緒に資産が上下に大きく揺れ動く富裕層のこと。

この本の著者Robert FrankはWSJでWealth Reportと言うコラムを書いているジャーナリストで、数年前にはRichstanという本でアメリカのヌーボーリッチの豪奢な生活ぶりを取り上げた。その著者が最近書いたHigh-Beta Richでは2010~2011年に富裕層やそれを取り巻く業界を再訪問し、バブル崩壊がこの社会層にどんな影響を与えたのかレポートしている。

お金持ちウォッチングはチョコレートにつぐ私のVice(悪習)のひとつで、白状するとどちらの本も読んでいる。単純な好奇心・野次馬根性もあるが、お金持ちの生活パターンや関心事は時間を追ってアッパーミドルやミドルクラスのものになっていくことがよくあるので、社会見学のひとつというのが私の言い訳。中でも、この本は様々なアイロニーに加えて、深くつっこんだ社会的考察もあって面白かった。

結論を先に言うと、富裕層の資産も生活もバブル崩壊の被害を強く受けていた。「今時のお金持ち達」がどれほど浮沈の激しい人生を生きているのか、この本でそれをかいまみることができる。

中でも極端な例をいくつか挙げてみる。

Yellowstone Clubの創始者であるBlixseth夫婦の片割れEdra Blixsethさんは特に極端で、一時はペーパー上のビリオネアーだったのが、今は自己破産して自宅の電話代も払えない状態。タイムシェアの会社Westgateの創始者David Siegel夫妻も、ビリオネアーから自己破産して、ベルサイユ宮殿を真似た豪邸の建設を途中であきらめなくてはならなかった。マルチ・ミリオネアーだったある土建業者は、今は家を失いトラックの中で寝泊りしながらハンディーマンのやっつけ仕事をして食べている。

昔のアメリカのお金持ちは製造・販売・運輸といった分野で会社を成功させ、その会社からの収入で暮らしたり、会社を売り渡したお金を保守的に資産管理して、何代もが裕福な暮らしをする・・・実際はどうか分からないが、イメージはそうだった。

今のお金持ちの多くは、株式・金融や不動産で富を形成している。これらの資産ベースは浮沈が激しく、新しい富裕層の資産レベルもそれによって大きく動く。英語で無一文の人がお金持ちになることを、"From Rags to Riches"と言うが、一代のうち、それも十数年もしないうちにまた"Rags"に戻ってしまうという話。

富裕層でも、特に痛い損失を受けたのは、

1.ライフスタイルのための無節制な借金
2.抑制の無い消費・出費
3.資産をほとんど分散させていなかった

そんな不利条件を重ねた人達だ。ビジネスが繁盛している間は、資産の分散なんてひどく馬鹿らしく感じられるらしい。収益は全部ビジネスに注ぎ込み、成長の機会を見逃さないためレベレッジを利用する。また、今の収入や成長がいつまでも続くだろうという仮定で消費したり、豪邸建築プロジェクト等を始めたりする。しかし、ビジネスがある時突然行き詰ったり、収益を生まなくなることもあるのだ。その時点でバッファーが無かったり、レバレッジがフルに効かせてあったり、リスク分散されていないと資産は急落することがある。

もちろん、多少のダメージを受けただけで済んだ富裕層もかなりいるはずで、この本にも一人例が出ている。でも、周囲の皆がバブルに踊り派手な消費で盛り上がる中、地道な生活を続けようとするのは精神的になかなか大変だったらしい。楽観的に消費に盛り上がるお金持ちに対比してみると、この地道なお金持ちの考え方は「もしかして病的に心配性?」のように見えるので不思議なものだ。もちろん、対比からくる錯覚なんだろうけど。

資産を失って一番つらかったのは、ほぼ皆口を揃えて「プライベート・ジェットを失ったこと」と言っている。プライベート・ジェットで旅行する快適さに慣れると、空港で長い列に並んで一般航空会社の商業旅客機に乗るのは(英語ではFlying Commercialと言う)耐えがたい屈辱・苦痛らしい。生まれて初めて商業旅客機に乗る小さい息子に「マミー、なんでうちの飛行機に知らない人が大勢乗ってるの?」と聞かれて、答えに窮した母親の話もあった。

お金持ちのプライベート・ジェットや豪華ヨット専門のRepo Man(差し押さえ屋)というのも存在するのだそうだ。

でも、富を失った後で本を書いているジャーナリストに会ってインタビューを受けるなんて滅茶苦茶勇気がいると思うのだが、それが出来るという辺りでこの人達は少し普通とは違うのかもしれない。

皆口を揃えたように「(贅沢な生活が懐かしくないとは言わないが)お金を失った経験を通して色んなことを学んだ。自分にって一番大切なのかは何なのは知ることが出来たのは貴重な体験だった」と言っている。これは、アメリカ人典型のポジティブ発言(日本で言う建前)なんだろうけど、こういう巨額の富を築く人達は(特に起業に成功する人達は)もともと極端な前向きオプティミストが多いのだろうとも思う。

多額の富を持ってもそれが幸せを保証するものではない。お金を得る過程は嬉しくても、お金が買う楽しみはすぐに色あせるし、お金があるからこそ生まれる孤立感や不安・問題といったものもあるという。我々一般ピープルが抱くお金持ち生活のファンタジーと、実際のお金持ちの生きる現実はかなり違うものらしい。もし皆がそういった現実やお金の力の限界を知っていれば、人々はお金を得ることよりも、生き甲斐や社会貢献、家族・友人達との人間関係といったもっと大切なものに専念できるのではないか・・・あるお金持ちがそういった述懐をしているのが印象的だった。目標立ててこつこつ貯金して、「あと○○ドルあれば、これが出来る、あの心配が無くなる・・・」なんて考えてる間は中々そう達観はできないのがミドルクラスの現実なので、実現は難しい提案だけど、妙に説得力がある言葉だった。

ポピー 2012/03/08(木) - 18:11

カンザスシティさん、こんにちは。コメントありがとうございました。

ほんと、アメリカのお金持ちはスケールでかいです。

確かに日本でプライベートジェットの話は聞かないですね。地理や空港
アクセスなんかの違いもあるのかもしれませんね。プライベート・
ヘリコプターの話は聞いたことあるような。渋滞の上をパタパタ飛べたら
気分良さそう。

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