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連邦所得税100周年に出されたオバマ大統領2014年度予算案

Max Hata
余り大騒ぎされることはないが、というか全然誰も騒いでないし騒ぐ必要もないが、今年は連邦政府に法人税・所得税(Income Tax)を課すことが認められて100年となる。連邦制度の下、統治の主たる地位を占める州と異なり、憲法で規定される限定的な権限のみを行使できる連邦政府にはIncome Taxを課す権限は認められていなかった時代が長い。そのままにしておいてくれれば、と嘆く向きもあるだろうが、1913年に合衆国憲法修正16条が可決され、連邦政府は始めてIncome Taxを課すことができるようになる。それまでの連邦政府による歳入徴収法には紆余曲折あったが基本的には外形課税の関税とか、Excise Taxだけだったそうだ。今は昔だが、歳出を抑えて憲法の原点に立ち返れば、Income Taxなんてなくてもやっていけるんじゃないかとか夢を見る今日この頃だ。

記念すべき100周年となる2013年、税法は複雑化する一方で税率は世界一だし、抜本的改正も未だに方向性が見えない。1787年当時の識者の集まりである起草者たちが現在の大きな連邦政府の状況を見たらどのように思うだろうか。

そんな中、オバマ大統領は4月10日に2014年会計年度(2013年10月~14年9月)の国家予算教書を議会に提出した。年末のFiscal Cliff騒動で共和党から譲歩を引き出す形で40万ドル以上の家庭に増税を規定したばかりだというのに、更なる増税が規定されている。共和党は増税に関してはFiscal Cliff騒動の始末を持って終わりと明言しているだけに、今後の反発は必死だろう。増税方法自体、税率を上げるというよりも、控除額に複雑な損金算入制限を設けることで増税を間接的に達成する、だまし舟的な手法によるものが提案されておりギミック的なものに見える。多くの規定は前年までの提案の焼き直しで、目新しいものと言えば適格退職金プランに対する拠出額制限くらいだろうか。

予算案は今後10年で1兆8,000億ドルに上る財政赤字を削減するとしているが、その1/3は増税による歳入像を財源としている。赤字の削減に更なる増税を加味するべきかどうかは民主・共和両党の意見の食い違う部分だ。

*所得税の増税規定

一番大きな歳入増が見込まれているのが、個人所得税の「個別控除(Itemized Deduction)」を制限することで達成される増税だ。個人所得税の税率はFiscal Cliff騒動の結果、40万ドルを超える高所得者に対しては35%から39.6%に増税されているが、今回の提案は税率そのものには変更を加えずに、控除額を減らすことで実質的な増税を狙っている。

具体的には比較的裕福な層に適用される「33%、35%、39.6%」の税率ブラケットで所得税を納める納税者に対して、Sch. Aで控除される個別控除の損金算入額に上限を規定しようとするものだ。個別控除の持つ減税効果は、本来、個々の納税者の限界税率(Top Margin Rate)で効いてくるはずだが、ここに制限を加えて、減税効果の上限を28%とすることで、税金は33%~39.6%で計算されるにも係らず、個別控除は28%のみしか税額を減らしてくれないという状況を作り出す。

また、以前から話題を呼んでいる「Buffet Tax」の提案もある。寄付金控除後の年収が100万ドルを超える納税者は、最低でも30%の税率で所得税を支払ってもらいましょうというものだ。累進税率の米国で所得が100万ドルを超えるのに、なぜ税率が30%を切るか不思議に思われる方もいるかもしれないが、お金持ちほど給与所得とか普通の所得の比率は低く、その代わりに投資活動から発生するキャピタルゲインや配当所得が多いのが現実だ。キャピタルゲインも配当所得も優遇税率の対象で、2012年までは基本的に15%、2013年からはFiscal Cliff騒動の一環で高所得者に対しては20%の税率が適用されるようになっている(それでも通常所得最高税率の39.6%よりはかなり低い)。

また、さらにセコめの規定としては物価スライド調整を算定する際に利用される指標を従来使用しているものとは異なる「新型の指標」とすることで、将来的に高税率区分に属する納税者を多くする、という隠し技的な提案も盛り込まれている。

現状では、物価スライド調整(Cost of Living Adjustment)に利用されているのはアメリカ労働統計局が算定するConsumer Price Index (CPI)だが、以前から諮問機関等によりこのCPIはインフレ率を過大表示する傾向があると指摘されている。そこで労働統計局は2000年から代替の指標としてChained CPU(名づけてC-CPI)と呼ばれるより洗練されたモデルに基づく数値を公表している。

この二つの差異を語る際に頻繁に用いられる例を引用すると次のような感じだ。もし「ふじリンゴ」の値段が高くなって 「デリシャスリンゴ」の値段が低いままだと、多くの人がデリシャスリンゴに乗り換える。このような行動パターンの影響はかなりリアルタイムに現状のCPIにも反映されているようだ。だが、ふじリンゴが高くなると、リンゴを買う代わりに(値段に変動のない)別のフルーツ、例えばオレンジを買う人が増えるという現象も当然起こり得る。このような商品バスケット自体に起こる変動効果を加味するのが、現状のCPIだと2年毎の1月なのに対して、C-CPUは毎月となるそうだ。

このような差異から、C-CPIに基づく物価スライド調整は年間0.25%は低くなるとされている。したがって、C-CPIを導入することで将来に亘りより所得の低い納税者を高い税率区分に属させることが可能となる。さらにC-CPIを公的年金の支給に代表される歳出にも同時適用することで歳出サイドを抑えることもできる。一石二鳥の効果が期待できるという訳だ。歳出抑制の側面を持つC-CPIの適用は共和党からの支持を受け易く、他の増税案には反対の共和党もこの案には好感を持っているようだ。

次回のポスティングでは所得税以外の国際課税、遺産税その他に関して触れる。
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