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Inversion (5)

Max Hata
前回は改訂Section 367財務省規則という当時は究極(?)と思われたInversion対抗策の発表を招いたHelen of TroyのInversionの話しのところで終わった。ちなみにHelen of Troyのケースでは、Inversion後も元々存在したCFCはそのまま米国「子会社」の下にそのまま残っていた(Out-from-Underはなかった)というから面白い。

Helen of TroyはSection 367新財務省規則を作らせたという意味で注目度が高いんだけど、このInversion 「Killer」として登場した新Section 367は、その後、余り実力がないことが分かる。理由はいろいろとあると思うけど、まず何と言ってもInversionのその後の法人レベルに与える税効果が絶大にポジティブだという動かしようのない事実がある。なので、Inversion時点に株主がCapital Gain課税されようが、その後のメリットを考えれば株主ですら余りネガティブに思わないというのが実態となってくる。誰も予想できない展開だっただろうけど、つまりそれだけInversionの長期的な魅力は大きいということだ。また、Section 367は株主レベルだけの課税なので、株価が低迷している際には、そもそもCapital Gainがない、又は少ないので何の抑止力もない。株価が下がると個人のExpatriationがし易いのに似ている。更に、米国企業の株主の中にはかなりの比率で非課税団体(ペンションFundとか)があるため、株主課税がそもそも存在しない(!)というケースもある。

結果としてSection 367は全然Killerとはならず、その後も平然とInversionが増え続け、かくもInversion Version 2.0の時代に入る。すなわち株主課税の可能性にもめげないPost-Section 367時代のInversionだ。TycoのInversionなんかは当時決行話題になったが、Section 367無視型Inversion2.0のいい例だろう。この時代のInversionもまだ相変わらず、単独でタックス・ヘイブンに脱出する形で、その意味では古き良き時代だ。またこの時期にInversionに絡む様々なBase Erosionテクニックが発達し進化を遂げ、だんだんと複雑な取引になってきた。

また、Inversion 2.0への進化すると同時に、政治家や世間の注目も集めることとなる。おりしも2001年には9・11の同時テロが発生し、米国の愛国心が高まったこともあり(?)Inversionに対して冷ややかな反応が増えてきた時期でもある。その頃から数多くのInversion対策の法案が提出されるようになる。新Section 367は全然Killerではなかったという認識はその頃には広く共有されるところとなっていた。

提出された法案はいろいろとあったけど、その中でも究極の抑止策として浮上してきたのがInversionしても、外国法人を税務上は「米国法人」と扱うというものだった。そんなことできるの?って感じの法案だったけど。もちろん米国法人扱いではInversionしたことにならないので効果は絶大だろう。また、米国法人かどうかっていう判断は現行の法律では法的な設立場所で決まるけど(出生地が米国だと市民権がもらえるのと何となく似てる)、それを管理支配地にしてはどうか、とか言う話しも出たりしていた。また財務省の広範な調査の結果、支払利息を最大限化してEarnings Strippingをしているのは日本企業のような生まれながらの外国企業より、Inversionした企業の方が派手にやっているという事実が統計的にも明らかとなり、この頃からEarnings Stripping規定はInversionした企業だけに対して強化してはどうかという法案も出始めていた。

しかし、実際のInversion対策法は2004年になりBush政権下での比較的大型の税法改訂パッケージとして法律化された「American Job Creation Act」にようやく盛り込まれることとなる。これはかなり複雑かつControversialな法律なので、次回はここから。
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