前回はInversion取引にSection 7874またはSection 367を適用して米国課税関係を決定する際に使用される米国法人旧株主の継続持分の分数計算のうち、分子側を圧縮して%を下げ、Section 7874に抵触しない(外国法人として認められる)、またSection 367に抵触しない(株主レベルでの課税がない)状態に持ち込む「Skinny Down」の話しを始めた。
Skinny Downは再編前に米国企業が通常の配当より大きな金額を特別分配して時価を圧縮するという手法で実行されるが、面白いことにSection 367にはAnti-Stuffing規定は存在するが、Skinny Downを取り締まる規定が盛り込まれていない点も前回触れた。この点に目を付けてSection 367目的でSkinny Downを堂々と行った有名なケースに2010年のValeantとBiovailの統合がある。
ValeantとBiovailは両社共、各々米国、カナダで名の通った製薬企業であり、Biovailはカナダではトップクラスの製薬企業だった。そんな2社がシナジー効果を求めて2010年に統合されたんだけど、統合前の段階ではValeantの時価の方が高かった。Valeantの相対的な時価は58%というSection 7874的には辛うじて問題がない持分比率だった。時価の観点から、また、統合後の社名がValeantと決定されていたこと、CEOも元ValeantのCEOが引き継ぐことになっていたこと、NYSEにも引き続き上場する(トロント株式市場と並行して)など、あらゆる面から実質的にはValeantによるBiovailの買収というが取引の実態と言える。しかし、形式的にはBiovailが統合後の親会社となった。俗に言うReverse Mergerだ。結果として米国MNCのValeantは姿を消し、蓋を開けてみると何のことはないValeantはInversionを通じてカナダ企業に生まれ変わっていた。
もし上の条件のままInversionしていても、Section 7874上は問題がない。すなわち新Valeantは米国税法上、外国法人として認められ(80%を切っているので)、また10年間のInversion Gainの課税の縛りもないことから(60%を切っているので)弾力的に統合後のOut-From-Underとか、Base Erosionテクニックを適用することが可能となる。普通のInversionであればこれで必要十分条件を満たしているどころか、60%を切っているのでパーフェクトInversionだと言える。50%を切っていないのでSection 367の適用はあるが、通常のDealでは以前から触れている通り、Section 367でInversionがストップされることはない。しかし、この取引の際にはValeant側の株主にCapital Gainを認識したくない者が居たとされ、したがってSection 367の適用が大きな問題となっていたと言われている。
そこでValeantは統合直前(大胆にも前日!)に、統合プランの一環で、Valeant株主に特別配当として現金分配(=Skinny Down)することとした。$1B以上の大きな現金を分配したおかげで、Valeantの時価はBiovailの時価の49.5%に下がった。この分配の原資がBiovailから来ているといろいろな問題があり得るが、ValeantによるValeant株主への特別配当はValeant側の自己資産+Valeant側だけで設定できる融資枠内の借入でまかなわれた。49.5%に相対的な時価が下がったため、Section 367の50%持分テストをクリアすることができ、また以前のポスティングで触れたSection 367のSubstantialityテストにも同時にパスして、株主レベルでの課税もなくなってしまった。
Section 367にAnti-Skinny Downの規定がないが故に可能となった取引だ。Section 7874テスト目的では特別配当は無視されたと思われるが、加算し直しても60%を切っているので何の影響もない。ちなみにその後、2014年にIRSは「Notice 2014-52」を発行し、Skinny Downの取り締まり規定をSection 367にも導入という方向となっている。
このValeantのInversionがいかにパワフルなものだったかは、Valeantがその後歩んだ道を見ればよく分かる。Inversion後のValeantの実効税率は5%にまで下がり、それは当然株価にも好影響をもたらし、株価が上がればM&Aのカレンシーとしての価値も高くなる。2010年のInversionから数年間にValeantは実に11社を買収している。2015年には遂に$10Bにも上るDealでSalixという米国企業を買収し、SalixのInversionを実現させるに至っている。このSalixはValeantとの統合Inversion実行以前の2014年にもイタリア法人を利用してInversionの実行を試みたが、IRSのInversion締め付けの規定により、最終的には実行を断念したという経緯がある。SalixのInversion前の実効税率は30%と言われていたので、先にInversionしていった買収側のValeantがいかに有利な立場にあったか良く分かる。
このように一旦Inversionした元米国企業が、次々にInversion取引を通じて別の米国企業までも外国企業に変身させてしまうのもInversion 5.0現象のひとつと言える。
という訳で、大分Present Timeに近づいてきたけど、次回以降のポスティングでは2014年、2015年にIRSが公表したNotice下でのInversion取締強化策でもスローダウンしないInversion、また最近の取引いくつかについても紹介してみたい。
Skinny Downは再編前に米国企業が通常の配当より大きな金額を特別分配して時価を圧縮するという手法で実行されるが、面白いことにSection 367にはAnti-Stuffing規定は存在するが、Skinny Downを取り締まる規定が盛り込まれていない点も前回触れた。この点に目を付けてSection 367目的でSkinny Downを堂々と行った有名なケースに2010年のValeantとBiovailの統合がある。
ValeantとBiovailは両社共、各々米国、カナダで名の通った製薬企業であり、Biovailはカナダではトップクラスの製薬企業だった。そんな2社がシナジー効果を求めて2010年に統合されたんだけど、統合前の段階ではValeantの時価の方が高かった。Valeantの相対的な時価は58%というSection 7874的には辛うじて問題がない持分比率だった。時価の観点から、また、統合後の社名がValeantと決定されていたこと、CEOも元ValeantのCEOが引き継ぐことになっていたこと、NYSEにも引き続き上場する(トロント株式市場と並行して)など、あらゆる面から実質的にはValeantによるBiovailの買収というが取引の実態と言える。しかし、形式的にはBiovailが統合後の親会社となった。俗に言うReverse Mergerだ。結果として米国MNCのValeantは姿を消し、蓋を開けてみると何のことはないValeantはInversionを通じてカナダ企業に生まれ変わっていた。
もし上の条件のままInversionしていても、Section 7874上は問題がない。すなわち新Valeantは米国税法上、外国法人として認められ(80%を切っているので)、また10年間のInversion Gainの課税の縛りもないことから(60%を切っているので)弾力的に統合後のOut-From-Underとか、Base Erosionテクニックを適用することが可能となる。普通のInversionであればこれで必要十分条件を満たしているどころか、60%を切っているのでパーフェクトInversionだと言える。50%を切っていないのでSection 367の適用はあるが、通常のDealでは以前から触れている通り、Section 367でInversionがストップされることはない。しかし、この取引の際にはValeant側の株主にCapital Gainを認識したくない者が居たとされ、したがってSection 367の適用が大きな問題となっていたと言われている。
そこでValeantは統合直前(大胆にも前日!)に、統合プランの一環で、Valeant株主に特別配当として現金分配(=Skinny Down)することとした。$1B以上の大きな現金を分配したおかげで、Valeantの時価はBiovailの時価の49.5%に下がった。この分配の原資がBiovailから来ているといろいろな問題があり得るが、ValeantによるValeant株主への特別配当はValeant側の自己資産+Valeant側だけで設定できる融資枠内の借入でまかなわれた。49.5%に相対的な時価が下がったため、Section 367の50%持分テストをクリアすることができ、また以前のポスティングで触れたSection 367のSubstantialityテストにも同時にパスして、株主レベルでの課税もなくなってしまった。
Section 367にAnti-Skinny Downの規定がないが故に可能となった取引だ。Section 7874テスト目的では特別配当は無視されたと思われるが、加算し直しても60%を切っているので何の影響もない。ちなみにその後、2014年にIRSは「Notice 2014-52」を発行し、Skinny Downの取り締まり規定をSection 367にも導入という方向となっている。
このValeantのInversionがいかにパワフルなものだったかは、Valeantがその後歩んだ道を見ればよく分かる。Inversion後のValeantの実効税率は5%にまで下がり、それは当然株価にも好影響をもたらし、株価が上がればM&Aのカレンシーとしての価値も高くなる。2010年のInversionから数年間にValeantは実に11社を買収している。2015年には遂に$10Bにも上るDealでSalixという米国企業を買収し、SalixのInversionを実現させるに至っている。このSalixはValeantとの統合Inversion実行以前の2014年にもイタリア法人を利用してInversionの実行を試みたが、IRSのInversion締め付けの規定により、最終的には実行を断念したという経緯がある。SalixのInversion前の実効税率は30%と言われていたので、先にInversionしていった買収側のValeantがいかに有利な立場にあったか良く分かる。
このように一旦Inversionした元米国企業が、次々にInversion取引を通じて別の米国企業までも外国企業に変身させてしまうのもInversion 5.0現象のひとつと言える。
という訳で、大分Present Timeに近づいてきたけど、次回以降のポスティングでは2014年、2015年にIRSが公表したNotice下でのInversion取締強化策でもスローダウンしないInversion、また最近の取引いくつかについても紹介してみたい。
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