Inversionをトピックとしたポスティングも13回目を向かえ、舞台は2014年と限りなく現在進行形となってきた。世代的にもInversionのVersion1.0から始まり、ついにVersion 5.0まで進化し、これが現時点での最新Versionとなる。今後もLaw Firm、ウォール街、Big-4会計事務所、がよりInnovativeな合法プラニングを編み出し、また議会、財務省が規制を強化し、Versionの進化は続くだろう。この傾向は、米国税法そのものが根本的に他の先進国並みの使い勝手の良さを備えるようになるまで、すなわち、法人税率が20%前半までの低減され、かつ海外子会社からの配当が非課税となるParticipation Exemptionまたはテリトリアル課税となる、まで続いていくだろう。税法そのものがここまでMNCにとって不利な状況を放っておいて、Inversionの個々のテクニックに掛ける網をいかにタイトにしても逆効果で、国をして得るものは少ないように思う。
テクニカル面での最近のアップデートとしては、止まらぬInversionに業を煮やした財務省が2014年と2015年に続けて発表した2つのNotice(最近のポスティングで部分的に触れているもの)、財務省、議会による強化法案の検討、となる。
そんな法的動向を尻目に、企業側は引き続きInversionの機会を狙い続けている。NYCで国際税務や組織再編の仕事をしている環境で個人的に肌で感じる米国MNCの動向としては、Inversionを敬遠している印象はない。むしろ今後の規制強化を睨み、Inversionの早期実行に対する意欲がますます強くなっているイメージを持っている。まさしく上述の規制の逆効果現象だ。
Inversion実行に敢えてLimitationがあるとしたら税法ではなく、適当な相手となる外国企業が見つからないという切実な問題の方が大きい。すなわち、米国MNCにとってInversion実行の足かせとなっているのは、適切なサイズを持ち、事業目的を達成できる外国の合併相手が少なくなってきているということが一番ではないかと思う。さすがの米国MNCもInversionのためとは言え、かなりの事業目的が伴なわないとそこまでの組織再編は最終的にViableなオプションとはならないため、ウォール街のCorporate Financeの人たちはInversionお見合い相手のリストを片手に日夜営業しているのような状況だろうけど、適切な相手を探し、デラウェア会社法に基づく法的プロセスを踏んでいくのは並大抵のことではない。また、前回のポスティングで触れたみたいに、生まれながらの外国企業ばかりでなく、昔は米国企業だったところが過去のInversionを通じて外国企業に生まれ変わった「新生」外国企業も、統合Inversionの相手としては有力な候補となっている。
2014年と2015年に相次いで財務省より発表されたNotice(2014-52と2015-79)は現状のSection 7874下で行政機関である財務省側に与えられた(と財務省は信じている)権限の範囲でできる限りの防御策を張り巡らせた内容となっている。
三権分立がしっかりしている米国では、財務省とは言え、税法に関して闇雲に規則やNoticeを乱発できる立場にはない。税法の各Sectionに「この条文のこの解釈に関しては財務長官(Secretaryと表記されているので「エッ、秘書が規則を?」と勘違いのないように・・)に規則を制定する権限を委ねる」と立法機関の議会が明記していることに関してのみ財務省規則の制定が認められる。この範囲を逸脱すると法的権限のない規則として不法(違憲)行為となるため、規則の内容以前の問題として、そもそも財務省に規則を制定する権限があるのかないのか、権限がある場合にはどこまでの範囲がその対象か、という点が議論・争点となることがある。そのような判断は、やはり三権分立のシステムに基づき、最終的には司法担当の裁判所が下すこととなる。この点が問題となり、無効とされた財務省規則の例として有名なのは「Loss Disallowance規定」だろう。「Rite Aid」という訴訟に基づき財務省規則(1.1502-20)が無効となったが、規則の内容も問題というよりも、連結納税の税法に基づく規則権限なのに、連結納税を直接的な原因としない局面もカバーされることがあるため行政機関の権限逸脱という、法解釈のテクニカル面に基づく判断だった。このLoss Disallowance Ruleは、連結納税規則に規定される子会社株式簿価の調整規定(1.1502-32)のポリス役として、経済合理性がない(と財務省が考える)損失とか損失の二重計上とかを取り締まるために規定されているんだけど、90年代から2000年台前半まで紆余曲折を経て、今日ではようやく「Unified Loss Rule」として1.1502-36に3つの異なる規則が同居する形でまとめられている。経済合理性のない損失は、どちらかと言うと、合理性がないというよりもGeneral Utilities主義が撤廃された後に、法人レベルの課税なく、含み益を持つ資産がステップアップする形で法人外に移管されるのを防ぐという意味が大きい。Unified Loss Ruleは複雑だが、結構日本企業の米国連結納税グループにも適用が多いので(知らぬが仏で適用していないケースもある?)、そのうちいつか触れてみたい。チョッとオタク過ぎるトピックかもしれないけど。
さて、Notice 2014-52、2015-79だけど、その名の通り、この2つの規則は「Notice」という形で発行されている。Noticeというのは基本的に、将来このようなRegulations(財務省規則)を発行します、という財務省の意思を公に発表し、その内容を即時に有効とすることで、場合によっては時間が掛かるかもしれない規則策定前に実質規則を押し付けてしまうものだ。普通は時流・トレンドとかを基に「緊急に」網を掛けないといけない局面だと財務省が判断するケースに使用される。Inversionはまさしくこのような緊急分野でかつハイプロファイル案件となり、かつ度重なる規制強化にもかかわらず、裏をかかれるような形でInversionが続々と実行されていく中で、特定のテクニックを即無効とするために発行されている。2つのNoticeに規定される内容の中にはSection 7874で認められた財務省の権限を逸脱しているのでは、または、Section 7874の立法趣旨を超えているのでは、とも考えら得るものがある。すなわち、財務省としては規則策定の権限を極限までに利用しているため、その有効性に関しては若干不確実な部分はあるだろう。この点は上述の通り、最終的には司法権を持つ裁判所に判断を委ねることとなるが、実際に規則の適用で不利益を被った(=課税された)納税者の立場にないと「Standing(当事者適格)」がないので、訴訟に持ち込むことができないので、最終的にこの点に関して司法の判断に至るかどうか分からないし、仮に判断が下るとしても何年も先の話しとなるだろう。
ちなみに先日、米国連邦最高裁判事9人の1人だったAntonin Scaliaがこのタイミングで(大統領選挙の混迷に代表されるように米国の方向性が混沌としているタイミングで)他界してしまった。Antonin Scaliaは憲法を原意解釈することで知られる知的好奇心の塊のような判事だった。税法に精通している訳ではないが、いわゆる「立法趣旨」などを持ち込んで、条文を深読みして解釈することに慎重で、特にBlue Bookのような、法律ができ「後に」編集された文書には立法趣旨を判断する上で価値はない、というような「なるほど・・」と考えさせられる知的な意見を残したりしていた。立法趣旨を理解する際に重要な拠り所としてBlue Bookを使うことが多い一般人としてはかなり考えさせられる知見と言える。
小さい連邦政府、「Live Free or Die」の精神で、大きな政府を嫌って新天地を求めた先人パイオニアたちが知恵を絞って制定した米国憲法。今では米国も大国病で、賢人たちが制定した建国の趣旨からどんどん外れ、連邦政府はついに医療保険にまで手を出し、1913年までは存在すらしなかった連邦税法がここまで、複雑化して多額の歳入を必要とするような時代になってしまった。州が国同様という連邦システムにもかかわらずだ。そのような重要なTurning Pointとも言える時期に、米国建国の原点に立ち続けた判事がいなくなってしまい、イデオロギー的には皆に受け入れられた訳ではないとは言え、知の巨匠の一人を失ったことは間違いなく、米国のFree Spiritを愛する個人としてとても残念。
またしても話しが脱線しまくっているけど、Antonin Scaliaのような判事が三権分立、連邦システムを厳しく司法の面から原意主義で厳しくチェックしてきた点と、Inversionの規則、Noticeの今後の運命と重なってしまった日曜日の午前中でした。午前中と言えば、米国では今日からDay Light Saving(サマータイム)。省エネで昔よりDay-Light Saving開始が早くなり、終了が遅くなっている。冬時間に戻る時は週末1時間「得」するんだけど、夏時間になる時は1時間「損」するので厳しい。今日も朝6時に起きた感覚が、既に7時だったのでショック。昔とちがってiPhoneとかPCは勝手に時間が変わるので、「忘れてて月曜日1時間遅刻しました・・」みたいな言い訳も通じないしね。
次回は2つのNotice、そして最新の法案提出動向を少しおさらいしてみたい。
テクニカル面での最近のアップデートとしては、止まらぬInversionに業を煮やした財務省が2014年と2015年に続けて発表した2つのNotice(最近のポスティングで部分的に触れているもの)、財務省、議会による強化法案の検討、となる。
そんな法的動向を尻目に、企業側は引き続きInversionの機会を狙い続けている。NYCで国際税務や組織再編の仕事をしている環境で個人的に肌で感じる米国MNCの動向としては、Inversionを敬遠している印象はない。むしろ今後の規制強化を睨み、Inversionの早期実行に対する意欲がますます強くなっているイメージを持っている。まさしく上述の規制の逆効果現象だ。
Inversion実行に敢えてLimitationがあるとしたら税法ではなく、適当な相手となる外国企業が見つからないという切実な問題の方が大きい。すなわち、米国MNCにとってInversion実行の足かせとなっているのは、適切なサイズを持ち、事業目的を達成できる外国の合併相手が少なくなってきているということが一番ではないかと思う。さすがの米国MNCもInversionのためとは言え、かなりの事業目的が伴なわないとそこまでの組織再編は最終的にViableなオプションとはならないため、ウォール街のCorporate Financeの人たちはInversionお見合い相手のリストを片手に日夜営業しているのような状況だろうけど、適切な相手を探し、デラウェア会社法に基づく法的プロセスを踏んでいくのは並大抵のことではない。また、前回のポスティングで触れたみたいに、生まれながらの外国企業ばかりでなく、昔は米国企業だったところが過去のInversionを通じて外国企業に生まれ変わった「新生」外国企業も、統合Inversionの相手としては有力な候補となっている。
2014年と2015年に相次いで財務省より発表されたNotice(2014-52と2015-79)は現状のSection 7874下で行政機関である財務省側に与えられた(と財務省は信じている)権限の範囲でできる限りの防御策を張り巡らせた内容となっている。
三権分立がしっかりしている米国では、財務省とは言え、税法に関して闇雲に規則やNoticeを乱発できる立場にはない。税法の各Sectionに「この条文のこの解釈に関しては財務長官(Secretaryと表記されているので「エッ、秘書が規則を?」と勘違いのないように・・)に規則を制定する権限を委ねる」と立法機関の議会が明記していることに関してのみ財務省規則の制定が認められる。この範囲を逸脱すると法的権限のない規則として不法(違憲)行為となるため、規則の内容以前の問題として、そもそも財務省に規則を制定する権限があるのかないのか、権限がある場合にはどこまでの範囲がその対象か、という点が議論・争点となることがある。そのような判断は、やはり三権分立のシステムに基づき、最終的には司法担当の裁判所が下すこととなる。この点が問題となり、無効とされた財務省規則の例として有名なのは「Loss Disallowance規定」だろう。「Rite Aid」という訴訟に基づき財務省規則(1.1502-20)が無効となったが、規則の内容も問題というよりも、連結納税の税法に基づく規則権限なのに、連結納税を直接的な原因としない局面もカバーされることがあるため行政機関の権限逸脱という、法解釈のテクニカル面に基づく判断だった。このLoss Disallowance Ruleは、連結納税規則に規定される子会社株式簿価の調整規定(1.1502-32)のポリス役として、経済合理性がない(と財務省が考える)損失とか損失の二重計上とかを取り締まるために規定されているんだけど、90年代から2000年台前半まで紆余曲折を経て、今日ではようやく「Unified Loss Rule」として1.1502-36に3つの異なる規則が同居する形でまとめられている。経済合理性のない損失は、どちらかと言うと、合理性がないというよりもGeneral Utilities主義が撤廃された後に、法人レベルの課税なく、含み益を持つ資産がステップアップする形で法人外に移管されるのを防ぐという意味が大きい。Unified Loss Ruleは複雑だが、結構日本企業の米国連結納税グループにも適用が多いので(知らぬが仏で適用していないケースもある?)、そのうちいつか触れてみたい。チョッとオタク過ぎるトピックかもしれないけど。
さて、Notice 2014-52、2015-79だけど、その名の通り、この2つの規則は「Notice」という形で発行されている。Noticeというのは基本的に、将来このようなRegulations(財務省規則)を発行します、という財務省の意思を公に発表し、その内容を即時に有効とすることで、場合によっては時間が掛かるかもしれない規則策定前に実質規則を押し付けてしまうものだ。普通は時流・トレンドとかを基に「緊急に」網を掛けないといけない局面だと財務省が判断するケースに使用される。Inversionはまさしくこのような緊急分野でかつハイプロファイル案件となり、かつ度重なる規制強化にもかかわらず、裏をかかれるような形でInversionが続々と実行されていく中で、特定のテクニックを即無効とするために発行されている。2つのNoticeに規定される内容の中にはSection 7874で認められた財務省の権限を逸脱しているのでは、または、Section 7874の立法趣旨を超えているのでは、とも考えら得るものがある。すなわち、財務省としては規則策定の権限を極限までに利用しているため、その有効性に関しては若干不確実な部分はあるだろう。この点は上述の通り、最終的には司法権を持つ裁判所に判断を委ねることとなるが、実際に規則の適用で不利益を被った(=課税された)納税者の立場にないと「Standing(当事者適格)」がないので、訴訟に持ち込むことができないので、最終的にこの点に関して司法の判断に至るかどうか分からないし、仮に判断が下るとしても何年も先の話しとなるだろう。
ちなみに先日、米国連邦最高裁判事9人の1人だったAntonin Scaliaがこのタイミングで(大統領選挙の混迷に代表されるように米国の方向性が混沌としているタイミングで)他界してしまった。Antonin Scaliaは憲法を原意解釈することで知られる知的好奇心の塊のような判事だった。税法に精通している訳ではないが、いわゆる「立法趣旨」などを持ち込んで、条文を深読みして解釈することに慎重で、特にBlue Bookのような、法律ができ「後に」編集された文書には立法趣旨を判断する上で価値はない、というような「なるほど・・」と考えさせられる知的な意見を残したりしていた。立法趣旨を理解する際に重要な拠り所としてBlue Bookを使うことが多い一般人としてはかなり考えさせられる知見と言える。
小さい連邦政府、「Live Free or Die」の精神で、大きな政府を嫌って新天地を求めた先人パイオニアたちが知恵を絞って制定した米国憲法。今では米国も大国病で、賢人たちが制定した建国の趣旨からどんどん外れ、連邦政府はついに医療保険にまで手を出し、1913年までは存在すらしなかった連邦税法がここまで、複雑化して多額の歳入を必要とするような時代になってしまった。州が国同様という連邦システムにもかかわらずだ。そのような重要なTurning Pointとも言える時期に、米国建国の原点に立ち続けた判事がいなくなってしまい、イデオロギー的には皆に受け入れられた訳ではないとは言え、知の巨匠の一人を失ったことは間違いなく、米国のFree Spiritを愛する個人としてとても残念。
またしても話しが脱線しまくっているけど、Antonin Scaliaのような判事が三権分立、連邦システムを厳しく司法の面から原意主義で厳しくチェックしてきた点と、Inversionの規則、Noticeの今後の運命と重なってしまった日曜日の午前中でした。午前中と言えば、米国では今日からDay Light Saving(サマータイム)。省エネで昔よりDay-Light Saving開始が早くなり、終了が遅くなっている。冬時間に戻る時は週末1時間「得」するんだけど、夏時間になる時は1時間「損」するので厳しい。今日も朝6時に起きた感覚が、既に7時だったのでショック。昔とちがってiPhoneとかPCは勝手に時間が変わるので、「忘れてて月曜日1時間遅刻しました・・」みたいな言い訳も通じないしね。
次回は2つのNotice、そして最新の法案提出動向を少しおさらいしてみたい。
コメントを追加