米国タックス行く年・来る年(11)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」 前回はThe Blueprintの中でも20%の法人税や25%のパススルー特別課税を提唱している重要部分に触れたが、今回は同様にThe Blueprintの心臓部を構成していると言ってもいいクロスボーダー課税に関して。
クロスボーダー系の部分に関してThe Blueprintは二つの抜本的な改正を提唱している。まずは国境調整。国境調整は「米国タックス行く年・来る年(6)」等で触れているが、かなり刺激的なので再度ここでもう少し背景等を含めて詳細に書いてみたい。
The Blueprintの基本的な主張は、現状の所得ベースの税法では米国自らが進んで米国からの輸出取引にペナルティーを課している状態にあるとし、これを消費地課税とすることで是正するとしている。この部分の議論をザックリとまとめると次のような感じ。
米国の貿易相手国は歳入の多くをVATでまかなっているが、VATには国境調整が付き物なので、「米国タックス行く年・来る年(6)」でも触れた通り、理論的にはクロスボーダー取引の局面では仕向け地のみで課税が発生する。すなわち、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。このメカニズムは貿易を行う両国が同じVATシステムを適用している限り、輸出側の国で非課税となる輸出は、それを輸入する側でフルに課税されるため、輸出と輸入に対する税効果は相殺されることになる。ところが米国はVATというシステムを採択しておらず、代わりに所得ベースの所得税・法人税のシステムを基本とする。となると、多くの相手国がVATを採択しているため、米国相手のみのケースで輸出と輸入に対する税効果の相殺がみられず、米国からの輸出(貿易相手国から見ると輸入)は米国で輸出の売上げに課税され、更に輸入に対してVATが課せられる一方、米国への輸入(貿易相手国から見ると輸出)は米国ではコスト算入されるので非課税となり、輸出側でもVATも還付されている、という不均衡が生じており、米国自ら輸入を奨励し、輸出を罰している結果となるということだ。
だったら連邦VAT導入とするのが分かり易い解決法だと思うんだけど、ここは歴史的な背景がある。実は米国でも抜本的改正の度にVAT導入論は出ている。ただ、常に低所得者層により負担が偏るのではないか、等の反対で実現していないし、近々に実現する気配もない。The Blueprintも、この現実を踏まえた上で、冒頭でVATは今回の検討対象ではないと明言し、国境調整の考え方を法人税・所得税に適用するというアプローチを選んでいる。資産取得コストを費用化できる「キャッシュフロー」ベースの税制に国境調整を組み合わせて、消費地ベースの課税とし、実質間接税と同じような効果を創出するという狙いだ。The Blueprintが改正後の税法をやたら「消費ベース」とか「キャッシュフローベース」とか強調しているのは後述のWTOルールに対する伏線のような気がする。
いずれにしても国境調整を米国税法に取り入れることで、米国も初めて貿易相手国と同じ土俵に立つことができるようになるとしている。
この国境調整はWTOのルールによると、「間接税(Indirect Tax)」の局面では認められているものの、ネット所得ベースのIncome Taxとなる「直接税(Direct Tax)」には認められてない。この点に関してThe BlueprintはWTO下での潜在的コンフリクトの存在は認めた上で、このようなルール下では直接税を採択している米国は一方的に不利な状態に置かれているとし、The Blueprintで提唱されているキャッシュフローおよび消費地ベースの税法は形式的にはIncome Taxだが、実質はWTOが言うところの「間接税」に近く、そのためWTO的にも問題がない(?)と結論付けている。国境調整をWTOに認めさせるためには何とかThe Blueprintで提唱されている税法を「間接税」に近いものと位置付ける必要があり、そのためには消費ベースでキャッシュフローベースという点を強調する必要が出てくることとなる。
法人税下の国境調整はなかなかのGame Changerと言えるけどWTOとか出てくると一筋縄では行かないかもね。WTOとか昔のGATTと米国税務の戦いで有名なのは、輸出に税務的な恩典を与えようとするDISC、FSC,そしてETIという変遷が思い出される。最終的には米国があきらめて今日のSection 199に至るんだけど。
次回はクロスボーダー系の二つの抜本的改正のもうひとつテリトリアル課税について。
クロスボーダー系の部分に関してThe Blueprintは二つの抜本的な改正を提唱している。まずは国境調整。国境調整は「米国タックス行く年・来る年(6)」等で触れているが、かなり刺激的なので再度ここでもう少し背景等を含めて詳細に書いてみたい。
The Blueprintの基本的な主張は、現状の所得ベースの税法では米国自らが進んで米国からの輸出取引にペナルティーを課している状態にあるとし、これを消費地課税とすることで是正するとしている。この部分の議論をザックリとまとめると次のような感じ。
米国の貿易相手国は歳入の多くをVATでまかなっているが、VATには国境調整が付き物なので、「米国タックス行く年・来る年(6)」でも触れた通り、理論的にはクロスボーダー取引の局面では仕向け地のみで課税が発生する。すなわち、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。このメカニズムは貿易を行う両国が同じVATシステムを適用している限り、輸出側の国で非課税となる輸出は、それを輸入する側でフルに課税されるため、輸出と輸入に対する税効果は相殺されることになる。ところが米国はVATというシステムを採択しておらず、代わりに所得ベースの所得税・法人税のシステムを基本とする。となると、多くの相手国がVATを採択しているため、米国相手のみのケースで輸出と輸入に対する税効果の相殺がみられず、米国からの輸出(貿易相手国から見ると輸入)は米国で輸出の売上げに課税され、更に輸入に対してVATが課せられる一方、米国への輸入(貿易相手国から見ると輸出)は米国ではコスト算入されるので非課税となり、輸出側でもVATも還付されている、という不均衡が生じており、米国自ら輸入を奨励し、輸出を罰している結果となるということだ。
だったら連邦VAT導入とするのが分かり易い解決法だと思うんだけど、ここは歴史的な背景がある。実は米国でも抜本的改正の度にVAT導入論は出ている。ただ、常に低所得者層により負担が偏るのではないか、等の反対で実現していないし、近々に実現する気配もない。The Blueprintも、この現実を踏まえた上で、冒頭でVATは今回の検討対象ではないと明言し、国境調整の考え方を法人税・所得税に適用するというアプローチを選んでいる。資産取得コストを費用化できる「キャッシュフロー」ベースの税制に国境調整を組み合わせて、消費地ベースの課税とし、実質間接税と同じような効果を創出するという狙いだ。The Blueprintが改正後の税法をやたら「消費ベース」とか「キャッシュフローベース」とか強調しているのは後述のWTOルールに対する伏線のような気がする。
いずれにしても国境調整を米国税法に取り入れることで、米国も初めて貿易相手国と同じ土俵に立つことができるようになるとしている。
この国境調整はWTOのルールによると、「間接税(Indirect Tax)」の局面では認められているものの、ネット所得ベースのIncome Taxとなる「直接税(Direct Tax)」には認められてない。この点に関してThe BlueprintはWTO下での潜在的コンフリクトの存在は認めた上で、このようなルール下では直接税を採択している米国は一方的に不利な状態に置かれているとし、The Blueprintで提唱されているキャッシュフローおよび消費地ベースの税法は形式的にはIncome Taxだが、実質はWTOが言うところの「間接税」に近く、そのためWTO的にも問題がない(?)と結論付けている。国境調整をWTOに認めさせるためには何とかThe Blueprintで提唱されている税法を「間接税」に近いものと位置付ける必要があり、そのためには消費ベースでキャッシュフローベースという点を強調する必要が出てくることとなる。
法人税下の国境調整はなかなかのGame Changerと言えるけどWTOとか出てくると一筋縄では行かないかもね。WTOとか昔のGATTと米国税務の戦いで有名なのは、輸出に税務的な恩典を与えようとするDISC、FSC,そしてETIという変遷が思い出される。最終的には米国があきらめて今日のSection 199に至るんだけど。
次回はクロスボーダー系の二つの抜本的改正のもうひとつテリトリアル課税について。
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