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米国タックス行く年・来る年(13)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

Max Hata
前回まで何回かに亘ってThe Blueprintの実体的な提唱部分をカバーしてきた。The Blueprintは「21世紀に相応しいService FirstのIRS」、「今後のアクション」、「Appendix」で締めくくられている。これだけのインパクトのある改正を統計的な付属資料等のAppendixを含めてトータル35ページで簡素にまとめている点は評価できる。ただ、簡素過ぎて実際の条文に落とし込む際にはいろいろな追加検討が必要となり、詳細部分を詰めながら同時に税法を超簡素化するはかなりのチャレンジとなることは目に見えている。まさに「The devil is in the detail」状態だろう。その意味ではThe Blueprintに記載されている方向性が達成できるんだったら、まずは第一段階として、税法をいきなり70,000ページから例えば20,000ページにできなくても仕方がないように思う。実際の立法化に際してどのような詳細を検討する必要が出てくるかとに関する個人的な感触は追って触れたい。それにしても2017年前半の立法プロセスが興味深い。

さて、「21世紀に相応しいService FirstのIRS」だけど、同様の動きは過去にもあり、記憶に新しいものに(と言っても既に20年近くの月日が経っているのには驚かされるけど)1998年の「The Internal Revenue Service Restructuring and Reform Act of 1998」がある。当時もIRSのズサンな納税者対応、不公平な差し押さえなどが議会で問題となり、納税者をカスタマーとして扱うようなトレンドとなった。この1998年のIRS改造法は「Taxpayer Bill of Rights」としても知られている。

一般の「Bill of Rights」は米国で暮らしていれば中学生でも知っている(べき?)憲法の規定で、個人の自由を保障した連邦憲法の1から10までの修正を指す。なぜ修正だったかと言うと、最初に憲法が起草された段階ではこれらの条項は盛り込まれておらず、それでは建国趣旨に反し時間の経過と共に連邦政府が大きくなり(オバマケアのように)個人の最大限の自由が侵食される余地があるのではないかという懸念があり、そこを担保するために追加されたものだからだ。以前にも頻繁に触れているが、米国の連邦制(Federalism)下では、通常の国家主権に当る多くの部分は「州」に帰属する。警察、消防、市民の一般的な福祉、等は全て州に帰属する権利であり、連邦政府が手を出すのは違憲行為となる。すなわち、連邦憲法には連邦政府として関与できる分野が明記されて、それ以外のことに連邦政府は手を染めることは禁じられており、残りの分野はデフォルトで州担当という構成になっている。逆に州政府が何をしていいという規定はなく、憲法で連邦に明白に与えられている権利以外は自然に州に属するというシステムだ。連邦政府は国防、州間通商、移民、外交、等、州単位ではなく国単位で関与する必要がある分野のみ担当となる。

Bill of Rightsは米国の個人の自由を保障する大基本で、言論・宗教の自由、フェアな裁判その他の刑事訴訟からのプロテクション、銃所持権(どこまでを認めているかは意見が分かれているけど)、その他がうたわれている。趣旨としては連邦政府が法律を制定したり、行政を行う際に憲法にて保障される個人の自由・権利を侵害していはならないというものだ。憲法下でのこれらの「Safeguard」は一部の例外を除き個人とか法人の私人に対してではなく政府に対して適用されるものだ。興味深いことに技術的にはこれらの修正に基く歯止めは元々連邦政府にしか適用がなかったが、「Incorporation(編入?)」という考え方に基き州政府・州法に対しても裁判所が適用を始め、最終的には14th Amendmentで州にも同様の制限が明白に適用されるようになった。ちなみに憲法の修正条項と言えば、1913年に16th Amendmentで憲法改正されるまで連邦政府は所得税とか法人税とかのIncome Taxを徴収することは禁じられていた。その後僅か100年チョッとで70,000ページの巨大な法律に進化してしまうのだから凄い。16th Amendmentがなければ今日の米国の生活は大きく違っていただろう。

で、Taxpayer Bill of Rightsだけど、憲法修正条項のBill of Rightsの名を借りて、納税者がIRSに対応する局面で認められる基本的な権利がまとめられている。多くが既に税法等の法律で守られているべき項目だが、再度これを体系的にまとめて確認している側面がある。これらは正確に算定された以上の税金を支払う必要はない、とか言う当然と思われるものから、「質の高いサービスを受けることができる」という抽象的なものまで入っている。更に1998年のIRS改造時には納税者の権利と並び、より適切な対応ができるよう、IRSの内部組織が再編されている。

すなわち1998年のIRS改造時まではIRSは地理的に区分けされた組織で納税者に対応していたが、これを機能・納税者のタイプベースに分けてより的を得た対応が取れるように再編された。それらは「Wage and Investment (W&I)」「Small Business/Self-Employed (SB/SE)」「Large Business and International (LB&I)」「Tax Exempt and Government Entities (TE/GE)」。

「W&I」は給与所得・投資所得のみの申告する実に1億2千万人におよぶ個人納税者を管轄する部隊となる。「SB/SE」はその他の通り、5千4百万人の自営業者・小規模ビジネス、「LB&I」(LBGTと語呂が似ているけど間違いないように)は25万社の資産1千万ドル超の法人(S法人含む)、パススルーを管轄する。面白いことに「LB&I」はオフショア(=米国外)に資産・事業を持つ米国市民・居住者、また米国で事業に従事する非居住者個人も担当とされた。「TE/GE」はその名の通りペンションプラン等のトラストを含むTax-Exemptを管轄する。

細かく言うと、これらのカスタマーFacingなユニットはIRSの2つの大きな内部組織である「the Deputy Commissioner for Services and Enforcement (DCSE)」と「the Deputy Commissioner for Operations Support (DCOS)」のうちの前者DCSEの下部組織となる。上述の4つユニットの他にもDCSEの中には罪関係の調査部門とかオバマケア関係のユニットとか総計10のユニットがある。DCOSの方はどちらかと言うとIRS内のバックオフィス的な機能を持った6つのユニットで構成される。

これらの複雑な組織をどのように再区分するのか不明だが、今回のThe Blueprintでは「World Class」サービスを提供するためこれを次の3つに再編するということのようだ。まず「The families and individuals unit」はその他の通り個人納税者に迅速な対応を専門とする組織。次は「The business unit」 で、これはあらゆるサイズの事業に対して新しい税法の適用を司るとしている。そして最後に「The small claims court unit」で、これはイメージとしては既存のAppeals Officeのもう少しアクセスのいいものみたいな感じだろうか。

「The Business Unit」は米国ビジネスをサポートするというThe Blueprintの目標を達成するため、小規模事業主やスタートアップ専門チームとグローバル規模のMNCをサポートするチームを別途下部組織として組成するとしている。これら3つの組織で「Service First」のIRSとして生まれ変わるというプランのようだ。でも組織変えても中で勤務している人たちが同じだとしたらそんな簡単にService Firstになるかな~、って感じはあるけどね。

またService Firstには最新の「Information Technology」も駆使するが、納税者のオプションで旧来の人による対応も残し充実させるそうだ。本当になれば素晴らしいけど。

最後にThe Blueprintは「The Path Forward」というタイトルでここから先のロードマップを簡単にまとめて締めくくられている。現状の税法からの大きな変更となる部分は適切は移行措置を策定するとし、セコイ改正ではなく、雇用創出、経済成長、生活水準の向上、という目的に立ち返って大胆な改正を提唱している。

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