前回、完全に不意打ちを喰らったSection 956の財務省規則案に関して、主にその背景を中心に書き始めた。Section 956の温存とHopscotch対抗規定の消滅の組み合わせがもたらす果てしないプラニング可能性の探求に意気込んでいた矢先だっただけに、規則案には冷や水を浴びた格好だ。Hopscotch対抗規定の消滅は、議会が熟考の上、判断したというよりも、Section960を大幅に構造改革している時点では、Section 956自体撤廃という前提で進んでいて、最後の最後にSection 956を復活させてみたものの、Hopscotch対抗規定を無くしていたことなどすっかり忘れて法律を最終化してしまった、としか思えない。急いては事を仕損じる、だったのだろうか。
で、今回の規則案では、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。
Section 956合算課税を説明する際に、どうしても「みなし配当」と言ってしまうのが一番分かり易いので、そう表現することが多いけど、税法上、Section 956合算は「配当」として取り扱われないので、この表現はかなり誤解を招くというか、「配当ではないぞ」って言い聞かせながら「みなし配当」と言う表現を用いる必要がある。Imagineじゃないけど、I wonder if you can的に難しいよね。配当扱いであれば、最初から実際の配当と同じように、要件を充足していれば100%配当控除が認められるだろう。しかし、実際にはそうでないところが、まさしく今回の規則案が必要になる一番の理由となる。
ここで、Section 956規定そのものに関してもう少し触れてみる。例によって詳細は恐ろしく複雑なのでほんのサワリ、すなわち要点だけ。
CFCの米国株主はSection 956合算額を課税所得として認識することになるけど、この合算額はCFCが保有する「米国資産」の四半期残高の年平均額が、過去に既にSection 956で合算されているCFCの留保所得を超過する金額、となる。ただし、このSection 956 合算額は、Section 956適用所得額を上限とする。Section 956適用所得額とは、基本的に米国の配当原資額と同様で、前年度末の累積E&Pと当年単年E&Pの合計額となる。ただし、前年度末の累積E&Pがマイナスで、かつ当年単年E&Pがプラスのケースは当年E&Pのみを参照する。これらのE&Pから当期内の実際の分配および過去にSection 956で課税済みとなっているE&Pを差し引いた金額がSection 956適用所得額だ。なお、CFCを100%保有していない場合には、各米国株主のPro-Rata持分を合算することになる。このPro-Rata持分という概念は、Section 956ばかりでなく、Subpart F、そして今後はGILTI計算の鍵となるもの。100%保有している場合も、CFCを期中に譲渡するようなケースでは売り手および買い手の合算額を検討する上で、最重要コンセプトとなる。これが、Section 956の一番ベーシックな部分だけど、いきなり難しいね。
Section 956の趣旨、すなわち、CFCから配当を受け取ると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛けるため、っていう背景を忘れずに考えてみると理解が容易に進むだろう。すなわち、いろんな言い訳でCFCが米国にお金を持ってくると(=米国資産に投資すると)、同額を配当していたら配当課税される範囲で(なので実際に配当されていないE&Pが上限)課税するけど、既に過去に課税されている留保所得を毎期毎期課税しないよう、過年度にSection 956で課税されている留保所得は、合算対象額および課税上限額となるSection 956適用所得額の双方から差し引いて当期の合算額を計算するという仕組みだ。過年度より残高が高くなれば課税されるけど、低くなっても控除は認められない。
米国資産の四半期毎の残高計算をする際には、米国税務簿価を用いる。また外国法人が途中からCFCになったり、CFCでなくなったりするケースの特別処理法も規定されている。ちなみに、米国株主やCFC認定時にDownward Attributionの不適用が撤廃されているので、内部再編とかを実行した後も、CFCがCFCであり続けるケースは以前より爆発的に増えるだろう。
で、Section 956目的の「米国資産」って言うと、まずはCFCによる米国株主および関連者への貸付が直ぐに思い浮かぶけど、それだけが対象ではない。米国内の有形資産、米国法人株式、無形資産の米国内使用権、などが基本的に対象だが、この原則対象資産に多くの例外が規定されている。法文に明記されている例外だけでもAからLまで12項目あり、銀行預金、米国から輸出される資産、とか細々と規定されるが、最重要な例外項目は、直接間接に25%以上の資本関係を持たない米国非関連者に対する貸付、資本投資、だろう。
米国への貸付は広義に解釈され、CFCによる保証や、米国株主がCFC株式を担保に差し入れるような取引もカバーされる。これが理由で、米国多国籍企業が米国で融資を受ける際の契約書は、Section 956合算を誘発するリスクを回避するようなTermが必ず入っている。LSTAによるサンプル契約書もこの点はしっかり網羅されているが、今回の規則案で若干、借入時のSection 956懸念は緩和されるだろうか。資金調達の契約条項の若干の自由化が期待できるかも。
で、このような規定のSection 956なんだけど、このまま放っておくと、Section 956は配当原資となるE&PがCFCに存在する範囲で、合算課税となり、それに伴い、外国税額控除が認められることになる。一方で、配当原資(もし、あればだけど)があり、それをCFCが実際に配当すると、100%配当控除が受けられる代わりに外国税額控除が認められない。
ここからが今回の規則案による取り扱いのオーバーライドで、財務省は執拗に「Section 956の立法趣旨は、実際の配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせるため」と、規則案の取り扱いを正当化し、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。そんなんだったら、Section 956なんてさっさと撤廃したらよかったのに、と思えるような大胆なオーバーライドぶりだけど、ただ、Section 956取引を常に非課税としている訳ではなく、仮に同額を配当して100%所得控除対象となる部分のみ、Section 956合算額ではないように処理しているところは注意に値する。
例えば、E&Pの中にECIや下層米国法人(サンドイッチ形態)から受け取った配当を原資とするE&Pが含まれている場合、100%配当控除は外国源泉E&Pにかかわる部分のみだけだから、米国内源泉E&Pに対応するSection 956取引金額は従来通りSection 956合算となる。CFCから国内源泉配当を実際に受け取る場合には、内国法人から受け取る際に認められる従来からの配当控除が認められるんだけど、米国内源泉E&PをSection 956で合算させられる場合には、この控除は認められないようだ。この部分は「実際に配当ではないから」ってことなんだろうか。規則を正当化するために散々「配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせる」と伝家の宝刀を抜きまくっている割に、いざ都合が悪くなると、異なる取り扱いとしている点、二枚舌?って観は否めない。
また、CFC側にSubpart Fで過去に課税済みの留保所得が存在する場合には、Section 956取引額が実際に分配されたとしても、「配当」にならないので、100%配当控除対象外だから、この額も減額はされずにSection 956合算額となる。もちろん、その場合には、課税済所得に対する規定がそのまま適用されるので、CFC株式の簿価を割り込まない限り課税はない。税制改正時に1987年以降の留保所得は一括課税されているし、今後はGILTIで毎年課税済留保所得は増える一方だから、実際の配当にしても、Section 956合算にしても、課税済留保所得を超える金額に至ることは実務上かなり限定的。このことから、100%配当控除そのものも、Section 956合算に対する同様の減額も余り意味がないとも言える。
さらに、100%配当控除の保有期間要件を充たせないCFCからのSection 956取引も、実際に配当があったとしても、配当控除適格とならないから、Section 956合算はそのまま。ただ、100%配当控除適格かどうかの保有期間は配当権利確定365日前から731日間に、365日超というものだから、配当後に1年間持っていれば充足できるわけで、なかなかこれに不足するケースはないように思われる。
間接的に保有する、下層CFCにSection 956取引がある場合、米国株主はあたかも下層CFCから直接みなし配当を受けたかのように考えて、100%配当控除適用有無を判断する。また100%配当控除はハイブリッド配当には認められないため、Section 956取引額が仮に実際に配当された場合に、CFCの所在国で損金算入できるようなケースではSection 956合算に減額はない。
最後に、Section 956が温存されている理由として一点考え得るのは、CFCの個人株主。個人株主は今回の税制改正後のクロスボーダー課税では散々な目にあっていると言える。留保所得の一括課税の対象となる割には、100%配当控除はないし、GILTI合算の対象となる割にGILTI控除もGILTI外国税額控除もない。なので、配当でなく、借入等でCFC保有の資金にアクセスしたいという動機は存在し続ける。となると以前同様にSection 956で監視し続けないといけない、ということになり、その点を加味しての温存だったんだろうか。
で、今回の規則案では、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。
Section 956合算課税を説明する際に、どうしても「みなし配当」と言ってしまうのが一番分かり易いので、そう表現することが多いけど、税法上、Section 956合算は「配当」として取り扱われないので、この表現はかなり誤解を招くというか、「配当ではないぞ」って言い聞かせながら「みなし配当」と言う表現を用いる必要がある。Imagineじゃないけど、I wonder if you can的に難しいよね。配当扱いであれば、最初から実際の配当と同じように、要件を充足していれば100%配当控除が認められるだろう。しかし、実際にはそうでないところが、まさしく今回の規則案が必要になる一番の理由となる。
ここで、Section 956規定そのものに関してもう少し触れてみる。例によって詳細は恐ろしく複雑なのでほんのサワリ、すなわち要点だけ。
CFCの米国株主はSection 956合算額を課税所得として認識することになるけど、この合算額はCFCが保有する「米国資産」の四半期残高の年平均額が、過去に既にSection 956で合算されているCFCの留保所得を超過する金額、となる。ただし、このSection 956 合算額は、Section 956適用所得額を上限とする。Section 956適用所得額とは、基本的に米国の配当原資額と同様で、前年度末の累積E&Pと当年単年E&Pの合計額となる。ただし、前年度末の累積E&Pがマイナスで、かつ当年単年E&Pがプラスのケースは当年E&Pのみを参照する。これらのE&Pから当期内の実際の分配および過去にSection 956で課税済みとなっているE&Pを差し引いた金額がSection 956適用所得額だ。なお、CFCを100%保有していない場合には、各米国株主のPro-Rata持分を合算することになる。このPro-Rata持分という概念は、Section 956ばかりでなく、Subpart F、そして今後はGILTI計算の鍵となるもの。100%保有している場合も、CFCを期中に譲渡するようなケースでは売り手および買い手の合算額を検討する上で、最重要コンセプトとなる。これが、Section 956の一番ベーシックな部分だけど、いきなり難しいね。
Section 956の趣旨、すなわち、CFCから配当を受け取ると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛けるため、っていう背景を忘れずに考えてみると理解が容易に進むだろう。すなわち、いろんな言い訳でCFCが米国にお金を持ってくると(=米国資産に投資すると)、同額を配当していたら配当課税される範囲で(なので実際に配当されていないE&Pが上限)課税するけど、既に過去に課税されている留保所得を毎期毎期課税しないよう、過年度にSection 956で課税されている留保所得は、合算対象額および課税上限額となるSection 956適用所得額の双方から差し引いて当期の合算額を計算するという仕組みだ。過年度より残高が高くなれば課税されるけど、低くなっても控除は認められない。
米国資産の四半期毎の残高計算をする際には、米国税務簿価を用いる。また外国法人が途中からCFCになったり、CFCでなくなったりするケースの特別処理法も規定されている。ちなみに、米国株主やCFC認定時にDownward Attributionの不適用が撤廃されているので、内部再編とかを実行した後も、CFCがCFCであり続けるケースは以前より爆発的に増えるだろう。
で、Section 956目的の「米国資産」って言うと、まずはCFCによる米国株主および関連者への貸付が直ぐに思い浮かぶけど、それだけが対象ではない。米国内の有形資産、米国法人株式、無形資産の米国内使用権、などが基本的に対象だが、この原則対象資産に多くの例外が規定されている。法文に明記されている例外だけでもAからLまで12項目あり、銀行預金、米国から輸出される資産、とか細々と規定されるが、最重要な例外項目は、直接間接に25%以上の資本関係を持たない米国非関連者に対する貸付、資本投資、だろう。
米国への貸付は広義に解釈され、CFCによる保証や、米国株主がCFC株式を担保に差し入れるような取引もカバーされる。これが理由で、米国多国籍企業が米国で融資を受ける際の契約書は、Section 956合算を誘発するリスクを回避するようなTermが必ず入っている。LSTAによるサンプル契約書もこの点はしっかり網羅されているが、今回の規則案で若干、借入時のSection 956懸念は緩和されるだろうか。資金調達の契約条項の若干の自由化が期待できるかも。
で、このような規定のSection 956なんだけど、このまま放っておくと、Section 956は配当原資となるE&PがCFCに存在する範囲で、合算課税となり、それに伴い、外国税額控除が認められることになる。一方で、配当原資(もし、あればだけど)があり、それをCFCが実際に配当すると、100%配当控除が受けられる代わりに外国税額控除が認められない。
ここからが今回の規則案による取り扱いのオーバーライドで、財務省は執拗に「Section 956の立法趣旨は、実際の配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせるため」と、規則案の取り扱いを正当化し、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。そんなんだったら、Section 956なんてさっさと撤廃したらよかったのに、と思えるような大胆なオーバーライドぶりだけど、ただ、Section 956取引を常に非課税としている訳ではなく、仮に同額を配当して100%所得控除対象となる部分のみ、Section 956合算額ではないように処理しているところは注意に値する。
例えば、E&Pの中にECIや下層米国法人(サンドイッチ形態)から受け取った配当を原資とするE&Pが含まれている場合、100%配当控除は外国源泉E&Pにかかわる部分のみだけだから、米国内源泉E&Pに対応するSection 956取引金額は従来通りSection 956合算となる。CFCから国内源泉配当を実際に受け取る場合には、内国法人から受け取る際に認められる従来からの配当控除が認められるんだけど、米国内源泉E&PをSection 956で合算させられる場合には、この控除は認められないようだ。この部分は「実際に配当ではないから」ってことなんだろうか。規則を正当化するために散々「配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせる」と伝家の宝刀を抜きまくっている割に、いざ都合が悪くなると、異なる取り扱いとしている点、二枚舌?って観は否めない。
また、CFC側にSubpart Fで過去に課税済みの留保所得が存在する場合には、Section 956取引額が実際に分配されたとしても、「配当」にならないので、100%配当控除対象外だから、この額も減額はされずにSection 956合算額となる。もちろん、その場合には、課税済所得に対する規定がそのまま適用されるので、CFC株式の簿価を割り込まない限り課税はない。税制改正時に1987年以降の留保所得は一括課税されているし、今後はGILTIで毎年課税済留保所得は増える一方だから、実際の配当にしても、Section 956合算にしても、課税済留保所得を超える金額に至ることは実務上かなり限定的。このことから、100%配当控除そのものも、Section 956合算に対する同様の減額も余り意味がないとも言える。
さらに、100%配当控除の保有期間要件を充たせないCFCからのSection 956取引も、実際に配当があったとしても、配当控除適格とならないから、Section 956合算はそのまま。ただ、100%配当控除適格かどうかの保有期間は配当権利確定365日前から731日間に、365日超というものだから、配当後に1年間持っていれば充足できるわけで、なかなかこれに不足するケースはないように思われる。
間接的に保有する、下層CFCにSection 956取引がある場合、米国株主はあたかも下層CFCから直接みなし配当を受けたかのように考えて、100%配当控除適用有無を判断する。また100%配当控除はハイブリッド配当には認められないため、Section 956取引額が仮に実際に配当された場合に、CFCの所在国で損金算入できるようなケースではSection 956合算に減額はない。
最後に、Section 956が温存されている理由として一点考え得るのは、CFCの個人株主。個人株主は今回の税制改正後のクロスボーダー課税では散々な目にあっていると言える。留保所得の一括課税の対象となる割には、100%配当控除はないし、GILTI合算の対象となる割にGILTI控除もGILTI外国税額控除もない。なので、配当でなく、借入等でCFC保有の資金にアクセスしたいという動機は存在し続ける。となると以前同様にSection 956で監視し続けないといけない、ということになり、その点を加味しての温存だったんだろうか。
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