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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)

Max Hata
で、結局、Pullman Loafは早々に売り切れてたんで、代わりにブリオッシュを買って始まったBEAT規則案のMorning After。幼少の頃、家の近くにあった「アートコーヒー」って店で母がブリオッシュよく買ってて、朝しょっちゅう摘まんでた影響で、時折ブリオッシュが無性に食べたくなる癖がまたしても店頭で頭を擡げてしまった。

規則案の中でも特筆すべき規定は昨日のBreaking Newsで触れているけど、若干もう少し真面目に解説した方がいいBEAT関連項目に関して、今回から数回に亘って触れてみたい。その後、約束通り、FTC、そして更にその後にSection 163(j)と、乞うご期待。でも、その間にもいろいろと気が散る題材が登場してきそう。米国事業に従事している(=ECIがあるという意味)パートナーシップ持分を外国人が譲渡した際の取り扱い、GILTIおよびFDII控除を規定するSection 250、そしてFTCと切っても切れない縁にあるPTI、100%配当控除を規定しているSection 245Aとか、今後も盛沢山そうなので、その都度、Breaking Newsには触れざるを得ない。となると、全て書き終えるのは更に数年(?)を要するかもね。国際税務業界の感覚として税制改正内容の具体的な方向性の探求は始まったばかりで、この長い冒険の旅、オデッセイは何年も続くというもの。楽しい本読んでたり、映画見てたりしても、いつかは終ってしまうのに比べて、国際税務のジャーニーは終わりがないのが嬉しい(?)。

ここに来てなぜ規則案が大量に公開されているかっていうと、いくつか側面はあると思うけど、財務省規則っていうのは普通は過去に遡及して効果を持つことはない。もう少し正確に言うと、最終規則は、最終規則そのものが公布された日、最終規則の基となる規則案(案そのものに法的効果はなし)、または暫定案(法的効果はあるが、一定期間を過ぎて最終化されない場合にはSunset)、が公布された日、IRSが「こんな規則を策定します」っていうNoticeを発行した日のいずれか早い日より前に効果を持つことは認められない。規則によっては納税者の選択で「早期適用」のオプションが規定されることも多いけど、これはあくまでも納税者側が自分の希望で勝手に適用するもの。規則の公布は米国連邦政府の官報または公報に当る「Federal Register」に掲載する形で行われる。ちなみに、規則が一般に公表される日、例えばBEAT規則案だったら2018年12月13日、は実際にFederal Registerに当規則案が掲載される日より数週間早い。過去訴求を認めないこの一般原則の例外として、「法改正に基づき迅速に策定される規則」、って日本語にするとチョッと固いけど、原文で言うところの「Promptly Issued Regulations」っていうのがあって、議会により法律そのものが新たに制定され、その日から「18カ月以内」に当法律に関して策定される財務省規則は、法律制定日まで遡って効果を持たせることができるというものがある。米国税制改正となるTCJAは2017年12月22日(後、1週間でAnniversary!)に署名されて正式に法律になっているので、2018年6月21日までに規則を最終化させることができれば、その内容全てが税制改正が適用される2018年課税年度(ほとんどの米国企業は2018年1月1日に開始する課税年度から新法適用)の初日から適用となる。

もうひとつの理由は、法的な制限ではなく、とてつもなく複雑な新しい法律を納税者に適用させるに当たり、何とか12月末までにできるだけのガイダンスを発行しておきたいという純粋なコンプライアンス面の検討。2018年12月決算の法人税申告そのものは2019年10月が最終期限だけど、予定納税、延長申請とか、また決算書上の法人税引当計算に関するガイダンスの必要性は待ったなしの状況だ。

という訳で洪水のように規則案が連発されていることになる。

で、BEATに戻ると、規則案では、まず諸々の定義を列挙した直後、誰がBEATの対象となるかという最重要検討事項でキックオフされている。これは物事の論理的な始め方と言えるけど、法文の方に目を移すとストラクチャー的にそのようなアプローチは難しく、大概、課税の概要から始まり、その後に適用対象納税者を含む、諸々の定義が来ることがほとんど。BEATを規定しているSection 59Aも、BEATミニマム課税概要から入って、法文で適用対象者の話しが出てくるのは、しばらく経ったSubsectionの(e)。法文をレターサイズにプリントすると、4ページ目で登場してくるキーとなる定義だ。規則案ではまず、この部分を入口で処理している。

BEAT適用対象者の基本は比較的シンプル。すなわち、S法人、RIC、REITを除く米国税務上Corporationと扱われる事業主体(便宜上、以下「法人」とする)。特に内国法人に限定されていない点に注意。ただし、過去3年平均売上が$500M未満(売上基準)、またはBase Erosion%3%未満(Base Erosion%基準)のいずれかの条件を充たす場合は適用除外となる。ちなみに銀行、証券会社のグループに含む納税者は3%ではなく2%。売上基準目的では、パートナーシップ持分を保有する米国法人は持分相当のパートナーシップ売上を加味する必要がある。

Base Erosion%は毎期の損金算入額に占めるBase Erosion Benefitsの占める%だけど、規則案では何を分母や分子に反映させるか、っていう点に関して、追加規則が規定されている。ここの部分はBase Erosion Paymentsから何を除外するかっていう部分と密接にリンクしているので、後日触れるBase Erosion Paymentsにかかわる話しを読んでからの方が分かり易いかもしれないけど、米国移転価格税制に規定されるService Cost Method(「SCM」)に準拠している役務提供対価、適格デリバティブ、Total Loss-Absorbing Capacity (“TLAC”)に基づく支払い、は分母・分子の双方から除外すると規定されている。TLACがBase Erosion Paymentsではないと規定された点は前回のポスティング通り。また、仮に為替差損益が関連者間取引を基に発生していても分母・分子の双方から除外される。逆に米国からInversionした企業に支払うCOGSや再保険プレミアムは分子・分母の双方に加算するとしている。更に、ケースとして多くはないと思うけど2018年1月1日以降に終了するCFCの課税年度が留保所得一括課税の合算課税年度となる場合、一括課税を現金部分は15.5%、それ以外は8%と低税率とするために計上される想定控除額は分母に加味が認められる。

ここまでのベーシックな売上基準やBase Erosion%基準そのものに関して、特に刺激的な部分は皆無と言えるけど、法文では売上基準、Base Erosion%基準の判断をする際に、特定のグループの数字を合算して行うこと、としている。所謂「Aggregationルール」に基づく「グループ合算規定」だ。法文では、Work Opportunity Credit(WOC)というおよそ国際課税に従事している者には馴染みのない条文を参照して、WOCで一人の雇用者と取り扱われる法人グループは、売上基準とBase Erosion%基準の判断時も「一人の納税者」として取り扱うと規定している。WOCのグループは、最終的にはSection 1563(a)のControlled Groupを80%以上ではなく、50%超基準で適用したものとなる。

Section 1563(a)のControlled Groupは世界中のグループ法人を含み、特に外国法人だからという理由のカーブアウトはない。法文にはなぜか、Section 1563(b)(2)(C)に規定される「外国法人はECIの部分を除き対象外」という部分に触れ、この除外規定は適用しないとしている。以前、BEATが法律として誕生した頃の今となっては懐かしいポスティングでも触れたけど、この除外規定の不適用は「弘法も筆の誤り」的な法文のドラフティングエラーとしか思えない。クロスボーダー課税の初心者であれば、Section 1563(a)のControlled Groupのメンバーの定義と、Section 1563(b)のComponentメンバーの定義がごちゃごちゃになりがちだって言うのは理解できるけど、海千山千の天下の上院財政委員会のスタッフライターはそんなことは百も承知のはず。Section 1563(a)には最初から外国法人も分け隔てなく含まれているので、その定義に何の影響も持たないSection 1563(b)で除外している外国法人を慌てて元に戻す、そんな必要もないはず。ただ、法文は全世界グループを意味しているっていう意気込みだけは充分に伝わってきていた。その上で、更に法文は、売上基準適用時に、外国法人に関して加味するべき売上は、米国申告課税対象となるECIに帰属する金額のみとしていた。

このグループ合算規定の解釈は実は結構チャレンジングで、もし全世界グループを合算するだけでなく、グループを一人の納税者と取り扱うとすると、全世界のグループ内法人間売上は消去することになり、計算に加味しなくていいように取れる。そもそもBase Erosion Paymentsは多くのケースで全世界グループの法人間の取引なだけに、Base Erosion%基準の算定時にまさかそれらを消去してしまうのはあり得ない。そこで、大方の解釈、というか個人的な解釈として合理的だと考えていたのは、売上基準目的では、外国法人のECI部分の売上と米国法人の売上に関して、その範囲のみで考えて内部取引がある場合には、消去するのではないか、というものだった。またBase Erosion%基準に関しては、Base Erosion Paymentsの定義がAggregationルールに基づくグループ規定とは異なるので、単純合算ではないかと考えていた。

この点に関して規則案では上の考え方に準じる規定となっている。すなわち、Aggregationルールで一人の納税者と取り扱われるグループは、50%超の資本関係にある米国法人とECI部分(語弊はあるけど分かり易く言うと米国支店部分)のみで構成されるとしている。また、米国と租税条約を持つ国の外国法人が内国法の米国事業活動とかECIではなく、PEプロテクションを適用して、PE帰属所得のみ米国で申告課税の対象とするケースでは、ECIに代わりPE帰属部分のみがAggregationルールでのグループに入ると規定されている。

この規定を基にAggregationルールを整理すると、売上基準に関しては、50%超資本関係にある全世界グループ内の「米国法人」の売上のみを合算する。唯一の例外は、外国法人でECIまたはPE帰属所得があるとして支店として納税申告をしているようなところがあれば、そこに反映されている売上は合算する。グループに含まれる米国法人間の内部取引に基づく売上は消去する一方、全世界グループの他の外国法人はAggregationルールのグループに含まれないことから、米国法人とグループ外国法人の売上は消去されない。例外は米国法人と米国支店間の内部取引でこれは消去される。また、これらの消去だのなんだのと言うルールはあくまで、売上基準の適用時にかかわるもので、Base Erosion Paymentsが何かという判断とは一切関係ない。

次のBase Erosion%基準だけど、こちらは基本的に消去するものはなく、米国法人および支店申告をしている外国法人がECIまたはPE帰属所得のネット課税所得算定時に取り込む、控除額全額合算が分母となり、各社のBase Erosion Benefitsの合計が分子となる。

また、グループメンバーの構成はBEAT適用課税年度末時点で毎期確定する必要があり、一旦確定したら、そのメンバーが過去3年を通じてメンバーだったかどうかにかかわらず、該当メンバーの過去3年の売上を参照することとなる。グループメンバーは固定ではなく、当然流動的なので、このようなルールが必要となる。

グループメンバーの中に異なる課税年度を持つ米国法人が存在することもあるけど、売上基準およびBase Erosion%基準は、算定を行おうとしている納税者本人の課税年度を基に合算する必要がある。例えば、3月課税年度の米国法人が12月課税年度の米国法人をグループメンバーに持つ場合、3月課税年度の米国法人がBEAT適用対象となるかの判断をする際には、12月課税年度のメンバー法人の4月から3月までの売上、費用、またBase Erosion Benefitsを切り出して合算し、基準額を算定することとなる。逆に、その12月課税年度の米国法人は、自分がBEAT適用対象となるかどうかの判断時に、3月課税年度のメンバー法人の1月~12月の数字を合算する。結果として同じグループ内で、一方はBEAT適用対象で、他方はそうでない、というようなケースも理論的には想定可能となる。グループメンバーに自分と異なる課税年度を採択している際、他のグループメンバー法人のために、自分の決算期以外の期間にかかわる金額を確定してあげないといけないという手間が増える。この算定は、何らかの合理的な方法を使用のこと、と規定されているので、必ずしも仮決算をする必要ななさそう。異常項目がなければ単純な按分計算でもいいように読める。

また細かい話しだけど、合算対象期間がBEAT適用課税年度外となる場合も構わず合算は必要と念押しされている。それはそうだろう。これは、例えば、12月決算の米国法人は2018年1月からBEAT対象となっているんで、2018年12月課税年度に自分がBEAT適用対象かどうかの判断をAggregationルールに基づいて行う必要があるけど、3月課税年度の米国法人がグループメンバーに存在する場合、3月課税年度の法人は2019年3月31日の課税年度に初めてBEAT対象となる。12月課税年度の法人がグループ合算計算を行う際に、3月決算の法人のBEAT対象期間外となる2018年1月~3月の金額もきちんと加味しなさい、という規則。

また、グループ内に銀行、証券会社がメンバーとして存在する場合はグループ全体に2%基準が適用 されるっていうのが原則だけど、銀行および証券業のグループに占める売上比率が2%未満の場合には、通常のルールに基づいてBase Erosion%基準は3%となる。

これで皆さん、誰がBEAT適用対象納税者となるか理解できたと思うので、次はBase Erosion Payments等に関して。

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