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401(k)最強拠出戦略

jinmei

以前のblogに書いた通り、筆者の勤め先の401(k)プランは普通の会社員が期待できるものとしては「最強レベル」だと思うのだが、それゆえの複雑な仕掛けがいろいろと含まれていることもあり、筆者は2017, 18年ともかなり大きな失敗をしてしまった。2017年分は概ね手間の問題だけだったのだが、2018年度分については金銭的にもかなり手痛い失敗であった。そこで、今年(以降)こそはそのような失敗をしないで済むように、失敗のもとになった問題を踏まえて再発防止のための仕組みを導入することにした。

(2019年4月1日追記: IRSのcompensation limitを考慮に入れていなかったことに気がついたので、参照スプレッドシートと本文を若干改訂)

「最強」拠出戦略

現勤め先の「最強」401(k)プランに対して筆者が考える「(自称)最強」の拠出戦略は以下のようなものである:

  1. Pre-tax、after-tax(経由のRoth)とも家計が許す最大限まで拠出する
  2. Pre/after-taxの両立が無理な場合はpre-tax優先
  3. 両立が可能な場合、matchも含めた拠出上限(2019年だと$56000)を超えないようにafter-tax拠出額を調整
  4. Matchはできる限り給料日に取る(つまりtrue-upにはできるだけ頼らない)
  5. その条件のもとで、pre-tax, after-taxともできる限り早く最大限に拠出する。その順番もpre-tax優先

1番目は言うまでもないだろう。2番目もほぼ自明とも言えるが、Roth IRAとdeductible traditional IRAのどちらにも拠出できる場合と同様、pre-taxがいつでも必ず有利とは言い切れない。ただ、筆者の場合はtax bracketが比較的高めなので、結局いま現在控除を取れるpre-tax優先ということになる。

3番目も当然のことを言っているように見えるかもしれないが、とくにtrue-up付きのmatchがあるような場合にうっかりすると上限を超えた拠出をしてしまうことがある。True-upで足される額は正確には年末になるまで確定しないが、給料天引きによる拠出額はその未確定額を含めて上限値におさまるようにする必要があるので、深く考えずに目一杯拠出しているとtrue-upが足された時点で上限を超えているということが起こり得る。なお、overallの拠出上限にはmatch分も含まれる(IRS資料の”overall limit”の項参照)こと、およびtrue-upの追加分はたとえ支払いが年を越えても(通常は)もとの対象年度内の拠出となる(stackexchangeのコメントおよびそこから参照されているCFR 1.415参照)ことに注意。これらにより、true-upを含む全match額を入れた拠出総額がoverall limit(2019年だと$56000)に収まっていないといけないことになる。

4番目の主な理由は、年内に(クビになったり転職したりして)退職した場合にmatchを取り損ねないようにすることである。他社の例は知らないが、少なくとも筆者の勤め先のプランでは、退職時点で受け取っていない(が翌年true-upで受け取れるはずの)match分は放棄することになってしまう。したがって、true-upはあくまで保険と考えて、各給料日ごとに最大限matchを受け取っておく方が望ましい。退職を考えないとしても、運用可能なお金をなるべく早く手に入れる方が有利という観点でもtrue-upでの追加拠出まで待たないで済む方がよい。

Matchを毎回確実に取るための安直な方法は各給料日の拠出額(給料比の割合)を一定にしておくことだろう。しかし、その方法では、年の前半に運用余力があってもそれを有利な場所(税優遇口座)で活用し切れないことになって効率が悪い(年初にmaxoutしてしまうという極端なケースと比較すると、平均で半年分の運用機会を逃していることになる)。これを避けるのが5番目の条件であり、matchを受け取るのに必要な拠出枠を除いた上限に到達するまで、年初からキャッシュフローが許す限りなるべく多く拠出する。この上限に到達した後は、原則としてはmatchを受け取るのに必要最低限の拠出を年末まで続け、理想としては最後の給料日でぴったりmaxoutに到達することになる。ただし、実際には、直前まで金額の確定しないボーナスがあるし、年の途中で昇給することもあり得るので、前述の「上限」は年の前半には正確には確定していない。したがって、ある程度の遊びを持たせた上で最小拠出を続け、年末近くになったところでより正確な見込みをもとに微調整することになる(それでも早期にmaxoutに至ってしまった場合はtrue-upに頼ることになる)。

なお、ボーナスや昇給のような不確定要素を考慮した場合、単純に毎回の拠出割合を一定にしていても年の途中でmaxoutに到達してmatchがtrue-up待ちになる可能性はある。したがって、もし各給料日に確実に最大限のmatchを取ろうとするなら、このような単純な拠出方針の場合でも多少の細かい操作が必要になる。

スプレッドシートによる拠出額管理

前項の通り、「最強」の拠出戦略の遂行にはかなり緻密な拠出額の管理が必要である。深く考えずに拠出していると、matchを満額取りそこねたり、pre-taxの枠を使い切れなかったり、過剰拠出になって面倒な事後処理が必要になったりといった事故を引き起こしてしまう(恥ずかしながら筆者はいずれの事故も経験済みである…)。何度か痛い目をみて、ようやくこれは筆者の頭だけで管理できるレベルではないと学習し、ツールの力を借りて緻密に拠出額を調整することにした。

具体的には、このリンクにあるようなスプレッドシートを使っている。まず毎年の上限値や想定される給与の額を入れ、給料日ごとに拠出総額を更新していくと、pre/after-taxの枠にあとどの程度拠出すべきかが計算されるようになっている。概ね、緑のセルが年初に入れる値、水色のセルが給料日ごとに更新する値で、他は自動計算されるかめったに変わらない固定値という分類である。

各行の意味は以下の通り:

  • Pre-tax limit: IRS指定のelective deferralの上限
  • Total limit: pre/after-taxとmatchを含む拠出総額のIRS上限
  • Compensation limit: match対象となる給与額のIRS上限
  • 名目給与/pay: 1給料日あたりの名目給与額
  • 給与見込額: 年間の給与(ボーナスを除く)総額の予想値。通常は1給料日あたりの額に給与日の回数をかけた値になるが、年の途中で昇給があったような場合は手動で調整する
  • ボーナス見込額: 年間のボーナスの予想値。実際の支払いごとに調整し、最後のボーナスの時点では確定値となる
  • Match対象割合・Match率: 前者は給与(ボーナス含む)総額に対するmatch対象額の割合、後者はその値に対する実際のmatch金額の割合。
  • Match Max: 入力時点での見込額を元にした、取り得るmatchの最大額
  • 残pay回数: 年内の残りの給料日(ボーナス除く)の数
  • 残ボーナス見込額: 「ボーナス見込み額」から実際にこれまで支払われたボーナスの総額を引いたもの
  • YTD pre/after-tax拠出 YTD match: 入力時点での拠出・Matchの総額。給与明細から転記する
  • Pre-tax追加拠出余地: matchを取るのに必要最低限な拠出額を除いたpre-taxの残り拠出枠
  • After-tax追加拠出余地: pre-taxとmatchを最大限に取った上でのafter-taxの残り拠出枠
  • xxx見込み: 記入時点での実績値をもとに拠出戦略に沿って拠出した場合の拠出総額の見込み。pre-tax、match、totalについてはそれぞれlimit値とMax値に等しくなっているはずである(もしそうなっていなければどこかがおかしい)

上のリンクに挙げたスプレッドシートには、参考として、年間の見込み給与額15万ドル($6250の24回払い)、ボーナス見込額4万ドル(うち2万ドルが確定)という架空の例に基づく数字を入れてある。この例では、残りの給料日は20回、これまでにpre-taxに$5000(毎給料日に$1250)、after-taxに$15000拠出したと仮定し、結果として$900のMatchを取っている。計算の結果によれば、pre-taxの追加拠出余地は$8200、match分に最低限必要な拠出額が1給料日あたり$250($6250 * 4%)であるから、同じペースであと約8回(8200/(1250-250) = 8.2)拠出したらそれ以降は最低限度額におさえて(端数は年末近くに調整する)、その分after-taxへの拠出に注力すればよいことになる(拠出余地である$18200分まで)。

「究極」の拠出戦略: 転職でafter-tax枠倍増

以上は、「(自称)最強」の拠出戦略を実現するための議論だったが、現実味はあまりないながらもし実現すればそれをも上回る「究極」の拠出戦略もある。年の中程で転職し、転職前後の401(k)プラン両方のafter-tax枠に全額拠出するというものである。これは、elective deferral(俗にいうpre-tax)の上限が全雇用主による全プランでの拠出合計値を対象としているのに対し、totalの上限値は各プランごと(より正確には雇用主ごと)に設定されていることによって可能になる。たとえばIRS資料によれば、elective deferralについては以下のように記載されている:

Generally, you aggregate all elective deferrals you made to all plans in which you participate to determine if you have exceeded these limits

のに対して、totalの上限については、以下のように1雇用者あたりの上限だと規定されている:

Total annual contributions (annual additions) to all of your accounts in plans maintained by one employer (and any related employer) are limited.

したがって、もし「最強」(少なくともafter-taxへの拠出とそこからのRothへのconvertが可能な)プランを持つ会社への転職が見込まれる場合、可能なら転職時期を調整して、まず転職前の会社のプランのafter-taxに限界まで拠出し、さらに転職後のプランのafter-taxにも満額拠出すれば、最大$112,000(2019年の場合)まで税優遇口座に入金できることになる(理論上は、2回以上転職して3つ以上のプランに拠出することも可能なはずだが、さすがにあまりに現実味がないだろう)。この場合、pre-tax枠およびmatchは(上限を超えない範囲で)どちらのプランで埋めてもよい。理想的にはmatchの条件がより有利な方や、fundの選択肢が良心的な方(とくに転職前のプランの方が優れている場合; 転職後のプランの方が優良ならtransferすればよい)に集中させるのだろうが、さすがにそこまで事前に完全に調整するのは難しいだろうから、現実的には転職前のプランに最大限に拠出しておくことになるのだろう。

もちろん、転職先の会社のプランがそのように都合がいいとも限らないし、転職のタイミングをこの観点で完全に調整することも難しいだろうし、仮にこれらが満たされても2つのプランをmaxoutしたあとの生活費をどう捻出するかが問題になる場合も多いだろう。ただし、emergency分を除いてもなお手持ちの流動資産に余裕があるようなら、一生に一度あるかないかのチャンスだと思ってそれを取り崩すことで最後の問題はクリアできる。もし万一筆者にその機会が訪れたときは逃さずに掴み取りたい(なお、そのためにも可能な限り拠出枠を早く埋めることが重要となる)。

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