前回のポスティングでは、GILTIにかかわる財務省規則が最終化されたのを機に、見直しが行われている米国クロスボーダー課税を考える際の「米国パートナーシップ」の取り扱いに関して触れ始めた。クロスボーダー課税を考える際の米国パートナーシップの位置づけは、テクニカルには過去長い間、燻っていた問題そのものだけど、以前はSub F所得というCFCが国外で認識する所得の極一部のみにかかわる「些細」な問題だったと言え、テクニカル面で複雑な割に、実務的には重要性に欠けていたことから余り時間を掛けて検討したりするインセンティブに欠けていたと言える。もちろん、賢い米国MNCは米国パートナーシップのSub F上の取り扱いが特殊な点に目を付け、CFCの下に米国パートナーシップ組成してSub F所得の「ブロッカー」にしたり、またIRSがそのようなプラニングに網を掛けようとしてNoticeを公表したり、と一部マニアックな世界ではエキサイティングな世界を展開していた。とは言え、マイナーな分野だった事実は否めないだろう。
そんな呑気な状況は、CFCが国外で認識する所得を米国株主側で毎期合算するGILTI課税の税制改正による導入で一変する。GILTIは、Subpart F所得と異なり、米国株主側の属性なので、誰が米国株主としてTested Income等を取り込み、それをどう加工してGILTI計算を行うのか、という従来のSub F所得合算では存在しなかった検討もこの問題の重要性に拍車を掛けていると言える。CFCの所得を毎期全額取り込むという新しい概念のクロスボーダー課税制度が導入されたため、CFCの課税所得をどのように算定するのか、という根本的な問題が他にも浮き彫りになっている。CFCの課税所得は、基本的には米国税法に基づき、CFCをあたかも「米国法人」かのように取り扱って算定、というのが従来のSub F所得時代からのルールだけど、この点も米国パートナーシップの取り扱い同様、従来はそれ程真剣に考えられていた感じはなく、CFCの課税所得を米国で毎期全額合算する制度に移行した今、ガイダンス不足の実態が白日の下に晒されている感じ。実際には米国法人でないCFCをどのように米国法人かのように考えて、米国税法を適用して課税所得の算定をするのか、というベーシックな検討の重要性が飛躍的に高まっている。この点は別の機会に触れるけど、CFCを米国法人のように取り扱って課税所得を計算するのであれば、米国法人にしか認めないと明確に法律で規定されているFDII控除をCFCで取ってみようとか、クリエイティブだけど、「なるほど・・座布団10枚」みたいな常識では考えられないような議論も登場してくる。財務省は「明らかに本当の米国法人にしか適用がない規定は、CFCには適用することは認められない」と常識的には当たり前だけど、法律の適用としてはとても難しいアプローチで、反論し今後ルールを策定をするとしている。
で、米国パートナーシップだけど、財務省のポリシー的な選択肢は元々2つのはずだった。従来のSub F所得同様に、法文を文字通り適用し、米国パートナーシップを合算米国株主としてパートナーシップレベルでGILTI合算させてしまうアプローチが一つ。または、Sub F所得と異なり、GILTIは米国株主レベルで複数のCFCの属性を通算させて計算するという立法趣旨を尊重し、Sub F所得の取り扱いから乖離して、米国パートナーシップを外国パートナーシップ同様にLook-throughしてGILTI合算を考える、というアプローチがもうひとつだ。後者は合算株主を定義している法文を文字通り解釈するとサポートが難しいが、逆にGILTIの立法趣旨はより良く反映しているアプローチと言える。ただ、後者を選択すると、米国パートナーシップが保有するCFCに対して、間接・みなし持分を加味しても10%以上の持分保有に至らない米国人パートナーが、GILTI合算対象から除外されるというチョッとIRSにとっては悔しい結果にもなる。かと言って前者のアプローチ、すなわち米国パートナーシップを合算株主と取り扱う考え方、は米国パートナーシップの利用したストラクチャーを工夫して、プラニングに利用されるのではないか、という懸念もあっただろう。例えば、不都合な属性を米国株主側で他のCFCの属性と通算しないでもいいよう、その部分だけ内部で組成する米国パートナーシップに保有させてみたりとか、Subpart F所得に対するブロッカー・ストラクチャーの例を見ても、米国パートナーシップが悪の温床となる得るリスクは現実のものだ。
このような不整合・不都合をバランス良く解消するため、2018年9月に公表された規則案では、両オプションの双方を組み合わせるという高尚なハイブリッド・アプローチを採択していた。ハイブリッド・アプローチでは、米国パートナーシップの米国パートナーがみなし持分保有を通じてパートナーシップが保有するCFCの10%以上の持分を保有するケース、すなわちパートナーシップばかりでなくパートナー自らも米国株主となっているケースは、米国パートナーシップを合算株主とせずLook-throughと考え、GILTI計算はパートナーシップ・レベルでは行わず、Tested Income、Tested Loss、QBAI、外国法人税等のCFC属性をパートナーに配賦し、米国パートナーが保有するかもしれない他のCFCの属性と通算してGILTI計算をする。その場合、米国パートナーが米国法人だと、50%のGILTI控除が取れたり、GILTIバスケットの外国税額控除が取れる、という追加メリットもある。
それ以外のパートナー、すなわちみなし持分を加味しても10%未満の持分しか保有しないパートナーは自らだけの状況を見ると米国株主には当たらないので、その者に関しては米国パートナーシップ・レベルでGILTI計算を行い、GILTI合算額そのものをパートナーに配賦する、というものだ。オプション2つを併用し、組み合わせているのでハイブリッド。
規則案で提案されたこのハイブリッド・アプローチはポリシー的には、バランスが取れていて確かに一理あるものだった。でも、その適用は複雑で、1065とかK-1とか作成するのは大変だっただろうし、従来からのパートナーシップ税制との絡み、例えば704(b)のキャピタルアカウントの考え方とかへの影響も複雑だった。規則案公表直後から、ハイブリッド・アプローチに対しては喧々囂々の議論があり、財務省にも反対意見が寄せられたことだろう。規則案公表後の業界や法曹界のパネルディスカッションに登場していた財務省やIRSのChief Counsel Officeの方も、この件に関しては、若干ディフェンシブな印象を受けていたので、規則最終化の際に何らかの形で簡素化されるだろう、と考えていた。
という訳で、ハイブリッド・アプローチは、志こそ高いものだったけど、実務対応面での懸念は大きく、最終規則では予想通り撤回され、全てのパートナーに関して、合算株主を決定する際に米国パートナーシップをLook-throughするという「Aggregateアプローチ」で統一されることになった。Aggregateというのは、パートナーシップ税法を語る際に、Entityアプローチと対比的に使われる用語で、パートナーシップはパートナーの集合体(なのでAggregate)と扱い、各パートナーに帰属するパートナーシップ資産、属性はパートナーそのものに属するかのように考えるアプローチを意味する。1954年の税制改正でSub Kが導入されてから、法人課税との比較においてAggregate概念は一貫してパートナーシップ税制のコアな原則だ。Section 752のパートナーシップレベルの負債を、パートナーの投資簿価に加算するような面倒な計算もOutside簿価とInside簿価を可能な限りタンデムにしようとするAggregateアプローチの現れだ。ただ、今回の税制改正では、Sectiton 163(j)の支払利息損金算入制限をパートナーシップレベルで適用したり、特定の状況にはEntityアプローチを適用したりしている。Aggregateアプローチを全体のアーキテクチャーとして構築されているSub KにEntityアプローチを散りばめたりすると、適用時の複雑性が大きく増す。400ページを超えるSection 163(j)の財務省規則案も、CFCと並びパートナーシップへの適用をどのように考えるかで苦労している。
GILTI最終規則で採択されたAggregateアプローチも、テクニカル面の理解は決して容易ではない。というのも、前回のポスティングでも触れた通り、Sub FやGILTIを考えるステップは、米国株主の特定、CFCの特定、合算株主の特定、合算額の計算、という複数のものだけど、各ステップに適用される外国法人に対する持分の考え方が異なっていて、この分野のことを四六時中考えているオタッキーな輩でもない限り、なかなか直感的に理解できるものではないからだ。
ここからは面倒な「みなし保有」規定の話しにならざるを得ないので、次回。
そんな呑気な状況は、CFCが国外で認識する所得を米国株主側で毎期合算するGILTI課税の税制改正による導入で一変する。GILTIは、Subpart F所得と異なり、米国株主側の属性なので、誰が米国株主としてTested Income等を取り込み、それをどう加工してGILTI計算を行うのか、という従来のSub F所得合算では存在しなかった検討もこの問題の重要性に拍車を掛けていると言える。CFCの所得を毎期全額取り込むという新しい概念のクロスボーダー課税制度が導入されたため、CFCの課税所得をどのように算定するのか、という根本的な問題が他にも浮き彫りになっている。CFCの課税所得は、基本的には米国税法に基づき、CFCをあたかも「米国法人」かのように取り扱って算定、というのが従来のSub F所得時代からのルールだけど、この点も米国パートナーシップの取り扱い同様、従来はそれ程真剣に考えられていた感じはなく、CFCの課税所得を米国で毎期全額合算する制度に移行した今、ガイダンス不足の実態が白日の下に晒されている感じ。実際には米国法人でないCFCをどのように米国法人かのように考えて、米国税法を適用して課税所得の算定をするのか、というベーシックな検討の重要性が飛躍的に高まっている。この点は別の機会に触れるけど、CFCを米国法人のように取り扱って課税所得を計算するのであれば、米国法人にしか認めないと明確に法律で規定されているFDII控除をCFCで取ってみようとか、クリエイティブだけど、「なるほど・・座布団10枚」みたいな常識では考えられないような議論も登場してくる。財務省は「明らかに本当の米国法人にしか適用がない規定は、CFCには適用することは認められない」と常識的には当たり前だけど、法律の適用としてはとても難しいアプローチで、反論し今後ルールを策定をするとしている。
で、米国パートナーシップだけど、財務省のポリシー的な選択肢は元々2つのはずだった。従来のSub F所得同様に、法文を文字通り適用し、米国パートナーシップを合算米国株主としてパートナーシップレベルでGILTI合算させてしまうアプローチが一つ。または、Sub F所得と異なり、GILTIは米国株主レベルで複数のCFCの属性を通算させて計算するという立法趣旨を尊重し、Sub F所得の取り扱いから乖離して、米国パートナーシップを外国パートナーシップ同様にLook-throughしてGILTI合算を考える、というアプローチがもうひとつだ。後者は合算株主を定義している法文を文字通り解釈するとサポートが難しいが、逆にGILTIの立法趣旨はより良く反映しているアプローチと言える。ただ、後者を選択すると、米国パートナーシップが保有するCFCに対して、間接・みなし持分を加味しても10%以上の持分保有に至らない米国人パートナーが、GILTI合算対象から除外されるというチョッとIRSにとっては悔しい結果にもなる。かと言って前者のアプローチ、すなわち米国パートナーシップを合算株主と取り扱う考え方、は米国パートナーシップの利用したストラクチャーを工夫して、プラニングに利用されるのではないか、という懸念もあっただろう。例えば、不都合な属性を米国株主側で他のCFCの属性と通算しないでもいいよう、その部分だけ内部で組成する米国パートナーシップに保有させてみたりとか、Subpart F所得に対するブロッカー・ストラクチャーの例を見ても、米国パートナーシップが悪の温床となる得るリスクは現実のものだ。
このような不整合・不都合をバランス良く解消するため、2018年9月に公表された規則案では、両オプションの双方を組み合わせるという高尚なハイブリッド・アプローチを採択していた。ハイブリッド・アプローチでは、米国パートナーシップの米国パートナーがみなし持分保有を通じてパートナーシップが保有するCFCの10%以上の持分を保有するケース、すなわちパートナーシップばかりでなくパートナー自らも米国株主となっているケースは、米国パートナーシップを合算株主とせずLook-throughと考え、GILTI計算はパートナーシップ・レベルでは行わず、Tested Income、Tested Loss、QBAI、外国法人税等のCFC属性をパートナーに配賦し、米国パートナーが保有するかもしれない他のCFCの属性と通算してGILTI計算をする。その場合、米国パートナーが米国法人だと、50%のGILTI控除が取れたり、GILTIバスケットの外国税額控除が取れる、という追加メリットもある。
それ以外のパートナー、すなわちみなし持分を加味しても10%未満の持分しか保有しないパートナーは自らだけの状況を見ると米国株主には当たらないので、その者に関しては米国パートナーシップ・レベルでGILTI計算を行い、GILTI合算額そのものをパートナーに配賦する、というものだ。オプション2つを併用し、組み合わせているのでハイブリッド。
規則案で提案されたこのハイブリッド・アプローチはポリシー的には、バランスが取れていて確かに一理あるものだった。でも、その適用は複雑で、1065とかK-1とか作成するのは大変だっただろうし、従来からのパートナーシップ税制との絡み、例えば704(b)のキャピタルアカウントの考え方とかへの影響も複雑だった。規則案公表直後から、ハイブリッド・アプローチに対しては喧々囂々の議論があり、財務省にも反対意見が寄せられたことだろう。規則案公表後の業界や法曹界のパネルディスカッションに登場していた財務省やIRSのChief Counsel Officeの方も、この件に関しては、若干ディフェンシブな印象を受けていたので、規則最終化の際に何らかの形で簡素化されるだろう、と考えていた。
という訳で、ハイブリッド・アプローチは、志こそ高いものだったけど、実務対応面での懸念は大きく、最終規則では予想通り撤回され、全てのパートナーに関して、合算株主を決定する際に米国パートナーシップをLook-throughするという「Aggregateアプローチ」で統一されることになった。Aggregateというのは、パートナーシップ税法を語る際に、Entityアプローチと対比的に使われる用語で、パートナーシップはパートナーの集合体(なのでAggregate)と扱い、各パートナーに帰属するパートナーシップ資産、属性はパートナーそのものに属するかのように考えるアプローチを意味する。1954年の税制改正でSub Kが導入されてから、法人課税との比較においてAggregate概念は一貫してパートナーシップ税制のコアな原則だ。Section 752のパートナーシップレベルの負債を、パートナーの投資簿価に加算するような面倒な計算もOutside簿価とInside簿価を可能な限りタンデムにしようとするAggregateアプローチの現れだ。ただ、今回の税制改正では、Sectiton 163(j)の支払利息損金算入制限をパートナーシップレベルで適用したり、特定の状況にはEntityアプローチを適用したりしている。Aggregateアプローチを全体のアーキテクチャーとして構築されているSub KにEntityアプローチを散りばめたりすると、適用時の複雑性が大きく増す。400ページを超えるSection 163(j)の財務省規則案も、CFCと並びパートナーシップへの適用をどのように考えるかで苦労している。
GILTI最終規則で採択されたAggregateアプローチも、テクニカル面の理解は決して容易ではない。というのも、前回のポスティングでも触れた通り、Sub FやGILTIを考えるステップは、米国株主の特定、CFCの特定、合算株主の特定、合算額の計算、という複数のものだけど、各ステップに適用される外国法人に対する持分の考え方が異なっていて、この分野のことを四六時中考えているオタッキーな輩でもない限り、なかなか直感的に理解できるものではないからだ。
ここからは面倒な「みなし保有」規定の話しにならざるを得ないので、次回。
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