前回、条約の改正と源泉税に関して、ファンドの話しなんかにも至りながら思いつくままに書いてみたけど、今回は、条約改正の目玉と言える二国間協議で解決しきれない問題に対する仲裁手続きの導入について簡単に触れてみたい。
仲裁手続きを語るには、その前提となる二国間協議に触れておく必要がある。二国間協議、相互協議、英語で言うとMAP(地図じゃなくてMutual Agreement Procedureのこと)、Competent Authority、とかいろんな用語が使用されるけど、基本的に意味は一緒。前回のポスティングで触れた通り条約は二国間の契約だけど、どちらかの国で条約不適合と考えられる課税を受けるような事案があれば、二国間で話し合って解決に「努める」という規定だ。二国間協議というと移転価格問題にかかわる事案が多いけど、制度的には条約不適合であれば何でも応じてくれる。特にPE有無とか、PE帰属所得の範囲、裁量で決めるLOBとか、Resourcingに基づくFTCとか、他国に比べて日本企業ももっと活用したらいい。LOB事案以外はタダだし。米国では二国間協議に対応する相互協議担当は移転価格担当のAPMAとそれ以外の事案担当のTAITの2つに分かれている。PEだけはAPMAとTAITが協働し、TAITがPE有無の判断、APMAが帰属所得の算定、を担当する
二国間で解決に努めるって言うと、単に努力するっていう感じにも取れるけど、英語では「Endeavor」と言って、普通の努力よりもSincereかつFormalに頑張るっていう意味が含蓄・内包されている感じがする。ただ、「Endeavor」しても、努めても、絶対に解決するという訳ではない。米国が関与する二国間協議の解決率は一般に90%以上のはずで、さらに日米間のように古くから移転価格問題を中心に二国間協議の歴史が長い間柄となると、確率はもっといいかも。二国間協議の解決率、所要期間等の統計は、OECDかどっかのウェブサイトに記載されていたと思うので、興味がある方は見てみるといいだろう。
この二国間協議、あくまでも条約を締結している当事者となる二国間の協議だから、事案そのものはもちろんどちらかの国の納税者にかかわるものだけど、協議そのものに納税者が参加したりすることは認められない。「我々の事案なので、自ら相手国の税務当局に想いを・・」と勇みたくなるかもしれないけど、あくまでも二国間の交渉となる。基本、両国間のやり取りや、更正を行った国が相手国に提出するポジションペーパーなんかも納税者が閲覧することは認めらない。
で、「Endeavor」したけど、物別れに終わるケースでは、各々の国の内国法に基づく救済措置を利用するしかなくなる。米国で言うと、IRS内のAppealとか裁判所で戦う、などの方法だ。ただ、各々の国で解決を試みるということは、租税条約に基づく救済ではないので、二重課税の排除が不可能となることが多い。そこで、条約を有するにもかかわらず、二国間の二重課税問題が最終的に解決をみないまま、封印されてしまう可能性があることは好ましくないということで、追加策として仲裁手続きを導入しようというグローバルトレンドがある。確かに最終的な決定、Finalityを実現するのは重要で、仲裁手続き導入の第一の目的と言えるけど、仲裁手続きの導入のもう一つの効果として、実務的にはこっちの方が大きいように思うけど、二国間協議を担当する両国の税務当局に24カ月以内に解決に至るようなプレッシャーやインセンティブを提供するというものがある。
日米租税条約で導入される仲裁手続きは、米国が既にカナダ、フランス、ベルギー等との条約で規定されている他の仲裁手続き同様、ベースボール方式と言って、仲裁パネルは双方の国のポジションのどちらかを選択して勝者を選択することしか認められない。すなわち、中間を取ったり、仲裁パネルが独自のポジションを編み出したりすることは認められない。となると、二国間協議に臨む両国は、余り限界に挑戦するようなポジションや自己中心的なポジションを主張して頑張ると、相手国がより節操のあるポジションを提示してきている場合、仲裁に持ち込まれると勝ち目がない。このことから、双方がより合理的なポジションを提示せざるを得ない傾向が強まると言える。
さらに、グローバル的に二国間協議に要する期間を24カ月以内にしたいというトレンドがあり、日米租税条約に導入された仲裁も、二国間協議に必要な情報を提出してから基本的に24カ月経過しても解決を見ない事案に申請が認められる。このことから、自ずと二国間協議を当期間内に何とか終了させたいというインセンティブも生じることとなる。
ちなみに条約上、事前価格合意、すなわちAPAも二国間協議の一つと位置付けられているけど、仲裁は、条約の趣旨に反する「課税を受けた事案」が対象となる。なので、APAの合意がなかなか実現しないケースをいきなり仲裁に持ち込むことはできない。としか読めない。DCのTP専門チームには、カナダとかベルギーとの条約では認められるので、日米でも今後更なる改正で可能にならないか、みたいな議論はある。あれらの国とはMOUとかで「できる」って明記してあるので、日米とは異なると思うんだけど、今後相互協議室間で追加合意でもするんだろうか。ただ、APAは既に二国間協議の申請を行っていると同様の位置づけなので、議定書では、仮にAPAでカバーされる取引に関して、APAが合意されていない状態でどちらかの国が更正を行う場合には、通常の更正と異なり、それ以上二国間協議を申し立てる必要はなく、いきなり仲裁に持ち込むことができる、としている。
APAと関係ない取引の場合、二国間協議のために両国に必要情報を全て提出し終えた日から2年経過するまで仲裁申し立てはできないけど、APAでカバーされる対象取引に関して、更正を受けた場合には、更正通知から6カ月を経過した時点でいきなり仲裁に持ち込むことができる。ただ、APAの検討に必要となる情報を両国に提供してから2年間は仮にこの6カ月という期間を充たしていても仲裁の申請は認められない、としている。 そもそも、APAでカバーされている取引を両国が検討している最中に、税務調査チームが一方的に更正を通知してくることは実務的には考え難い。となると、これはAPAを申請したけど、APA合意に至らないで終わってしまったケースにかかわる短縮手続きと言っていいかもね。それともDCの人たちが期待しているように今後、別契約でAPAだけの状態で仲裁手続きに持ち込めるようなことになるんだろうか。
仲裁手続きを語るには、その前提となる二国間協議に触れておく必要がある。二国間協議、相互協議、英語で言うとMAP(地図じゃなくてMutual Agreement Procedureのこと)、Competent Authority、とかいろんな用語が使用されるけど、基本的に意味は一緒。前回のポスティングで触れた通り条約は二国間の契約だけど、どちらかの国で条約不適合と考えられる課税を受けるような事案があれば、二国間で話し合って解決に「努める」という規定だ。二国間協議というと移転価格問題にかかわる事案が多いけど、制度的には条約不適合であれば何でも応じてくれる。特にPE有無とか、PE帰属所得の範囲、裁量で決めるLOBとか、Resourcingに基づくFTCとか、他国に比べて日本企業ももっと活用したらいい。LOB事案以外はタダだし。米国では二国間協議に対応する相互協議担当は移転価格担当のAPMAとそれ以外の事案担当のTAITの2つに分かれている。PEだけはAPMAとTAITが協働し、TAITがPE有無の判断、APMAが帰属所得の算定、を担当する
二国間で解決に努めるって言うと、単に努力するっていう感じにも取れるけど、英語では「Endeavor」と言って、普通の努力よりもSincereかつFormalに頑張るっていう意味が含蓄・内包されている感じがする。ただ、「Endeavor」しても、努めても、絶対に解決するという訳ではない。米国が関与する二国間協議の解決率は一般に90%以上のはずで、さらに日米間のように古くから移転価格問題を中心に二国間協議の歴史が長い間柄となると、確率はもっといいかも。二国間協議の解決率、所要期間等の統計は、OECDかどっかのウェブサイトに記載されていたと思うので、興味がある方は見てみるといいだろう。
この二国間協議、あくまでも条約を締結している当事者となる二国間の協議だから、事案そのものはもちろんどちらかの国の納税者にかかわるものだけど、協議そのものに納税者が参加したりすることは認められない。「我々の事案なので、自ら相手国の税務当局に想いを・・」と勇みたくなるかもしれないけど、あくまでも二国間の交渉となる。基本、両国間のやり取りや、更正を行った国が相手国に提出するポジションペーパーなんかも納税者が閲覧することは認めらない。
で、「Endeavor」したけど、物別れに終わるケースでは、各々の国の内国法に基づく救済措置を利用するしかなくなる。米国で言うと、IRS内のAppealとか裁判所で戦う、などの方法だ。ただ、各々の国で解決を試みるということは、租税条約に基づく救済ではないので、二重課税の排除が不可能となることが多い。そこで、条約を有するにもかかわらず、二国間の二重課税問題が最終的に解決をみないまま、封印されてしまう可能性があることは好ましくないということで、追加策として仲裁手続きを導入しようというグローバルトレンドがある。確かに最終的な決定、Finalityを実現するのは重要で、仲裁手続き導入の第一の目的と言えるけど、仲裁手続きの導入のもう一つの効果として、実務的にはこっちの方が大きいように思うけど、二国間協議を担当する両国の税務当局に24カ月以内に解決に至るようなプレッシャーやインセンティブを提供するというものがある。
日米租税条約で導入される仲裁手続きは、米国が既にカナダ、フランス、ベルギー等との条約で規定されている他の仲裁手続き同様、ベースボール方式と言って、仲裁パネルは双方の国のポジションのどちらかを選択して勝者を選択することしか認められない。すなわち、中間を取ったり、仲裁パネルが独自のポジションを編み出したりすることは認められない。となると、二国間協議に臨む両国は、余り限界に挑戦するようなポジションや自己中心的なポジションを主張して頑張ると、相手国がより節操のあるポジションを提示してきている場合、仲裁に持ち込まれると勝ち目がない。このことから、双方がより合理的なポジションを提示せざるを得ない傾向が強まると言える。
さらに、グローバル的に二国間協議に要する期間を24カ月以内にしたいというトレンドがあり、日米租税条約に導入された仲裁も、二国間協議に必要な情報を提出してから基本的に24カ月経過しても解決を見ない事案に申請が認められる。このことから、自ずと二国間協議を当期間内に何とか終了させたいというインセンティブも生じることとなる。
ちなみに条約上、事前価格合意、すなわちAPAも二国間協議の一つと位置付けられているけど、仲裁は、条約の趣旨に反する「課税を受けた事案」が対象となる。なので、APAの合意がなかなか実現しないケースをいきなり仲裁に持ち込むことはできない。としか読めない。DCのTP専門チームには、カナダとかベルギーとの条約では認められるので、日米でも今後更なる改正で可能にならないか、みたいな議論はある。あれらの国とはMOUとかで「できる」って明記してあるので、日米とは異なると思うんだけど、今後相互協議室間で追加合意でもするんだろうか。ただ、APAは既に二国間協議の申請を行っていると同様の位置づけなので、議定書では、仮にAPAでカバーされる取引に関して、APAが合意されていない状態でどちらかの国が更正を行う場合には、通常の更正と異なり、それ以上二国間協議を申し立てる必要はなく、いきなり仲裁に持ち込むことができる、としている。
APAと関係ない取引の場合、二国間協議のために両国に必要情報を全て提出し終えた日から2年経過するまで仲裁申し立てはできないけど、APAでカバーされる対象取引に関して、更正を受けた場合には、更正通知から6カ月を経過した時点でいきなり仲裁に持ち込むことができる。ただ、APAの検討に必要となる情報を両国に提供してから2年間は仮にこの6カ月という期間を充たしていても仲裁の申請は認められない、としている。 そもそも、APAでカバーされている取引を両国が検討している最中に、税務調査チームが一方的に更正を通知してくることは実務的には考え難い。となると、これはAPAを申請したけど、APA合意に至らないで終わってしまったケースにかかわる短縮手続きと言っていいかもね。それともDCの人たちが期待しているように今後、別契約でAPAだけの状態で仲裁手続きに持ち込めるようなことになるんだろうか。
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