つい先日、10月前半にOECDがここ一年弱取り組んできたデジタル課税にかかわる「Secretarial Proposal」を公開した。日本でも大きく報道され議論を呼んでいると思うけど、このProposalの対象となるピラー1はデジタル化する経済下での新たな国際課税ルールの構築、すなわち物理的プレゼンスなしでも課税、その際にどのように各国に利益を配賦するべきか、のグローバル・コンセンサス作りを目的としている。米国大手ハイテクをどのように各国が課税して、良くメディアが使うフレーズである「GAFA課税逃れ」に網を掛けるか、そして各国税務当局の目から見た「Fair Share」のタックスを支払わせるか、っていうレトリックから始まっている議論。今回のProposalでは直接カバーされていないピラー2はデジタル課税と直接的な関係は低いように見えるけど、米国税制改正で導入された新たなクロスボーダー課税であるGILTIやBEATに触発された切り口の提案。GAFA等の米国企業のイノベーションは米国で構築されている点、元来から米国企業が合法的なクロスボーダー・タックスプラニング(すなわちBase Erosion)に熱心に取り組んできた点、そして世界最高の法人税率とWW課税とは言えSub F以外は永遠にDeferralが可能な税制、等諸々の独特な背景があり、GILTI、FDII、BEAT、Anti-Hybrid、(新)163(j)、税率引き下げ、を複合的に組み合わせて手を打ったのが米国税制改正。この一部を借用するような形で、OECDのピラー2では、米国の立法趣旨とは異なる切口で、各国が法人税率をどんどん下げたりするのはその国の勝手だけど、そんなことしても、本店所在地で差額のタックスを課したり、低税率国にある関連会社に費用を支払っても損金算入できない、とすることで低税率化のトレンドを無意味にする効果を達成しようとしているようなイメージを受ける。
各論には賛否両論あると思うけど、今後の国際課税ルールに関してグローバルで原則的なコンセンサスを得ないといけないっていうのはその通りで、そのためにOECDがInclusiveに頑張っている中での「Secretarial Proposal」。企業側もとにかく「予見可能性」を高めてもらいたい訳だからグローバル・コンセンサスは基本ウェルカムなはず。問題はそのようなコンセンサスは幻想的とまでは言わないまでも、玉石混淆の世界では達成がとても難しいという点だろう。
まず第一に、忘れてはいけないのはこの「Secretarial Proposal」の位置づけ。これで世界が終わっちゃったり、各国が法律を制定するというものではなく、今後、関係諸国と調整を進めるためのステージ作りと考えるといいだろう。決してテクニカルな部分を詳細に規定するような意図はなく、むしろポリティカルにグローバルコン・センサスを取り付ける前提を提示しているものと言える。
OECDがアグレッシブなタイムスケジュールで事を推し進めている背景には、さっさとグローバル・コンセンサスを取り付けないと、セッカチな国やEUとかが独自のDST導入を決定・検討する流れがあり、そのような状況を放っておくと国際課税システムの無秩序化が必至という厳しい現実がある。今回、OECD側の予定通りの進展を誇示することで、各国を牽制する目的があるはず。何らかのハイレベルな原則に基本合意できれば、勝者と敗者が必ず混在する新国際課税ルールに関して、敗者側の納得感を担保し易くなる。テクニカルにいかに完璧でも、各国のポリティカルな事情でコンセンサスに至ることができなければ砂上の楼閣となってしまい、せっかくの試みが瓦解するのは素人でも想像に難くない。まずは比較的シンプルな原則に関してポリティカルなコンセンサス取り付けに注力するしかないだろう。
先に公開されていたピラー1では、「ユーザーベース、Market Intangible、デジタルPE」という3つのアプローチが提案されてたけど、3月にパリで開催されたヘアリングその他の各界からのインプットに基づいて、基本的なアプローチはMarket Intangibleに集約されてきている。他の2案がどちらかというと未焼成の状態にあったと言えるので、これは大方予想通り。ユーザーベースは対象が狭義(GAFA等)で、長期的な国際課税フレームワークとしては若干Sustainabilityに欠ける観があったし、そもそもユーザーがどこの国に居るという判断をどうやってするのか、っていう米国FDIIのユーザー地証明義務に準じる実務的な問題が付きまとう。第三の「拡大PE案」は、そもそもピラー1では物理的PEなしでも課税と言うのが大原則だったはずなので、それ以上のインパクトや具体性に乏しく、今から第三の案をじっくり時間を掛けて構築してヒマはない、ということで消去法(?)に基づきMarket Intangibleに。
ピラー1の大前提である物理的なプレゼンスがなくても各国に課税権を認めるという議論は、米国の2018 年の最高裁判決South Dakota v. Wayfairにも通じるものがある。Wayfairは米国の憲法下でのSales Tax徴収の話しで、憲法のような法的なフレームワークが存在しない世界各国に同様の議論を適用するのは施行面でチャレンジ度合いが段違いに高いけど、概念的には同じ方向。PEという用語は物理的プレゼンスが求められるように感じるケースが多いせいか、最近は代わりに「Nexus」という用語が使われることが多い。米国では州の課税権や、他の民法上の裁判管轄権の話しで古くからよく使う用語なので馴染み深いけど、日本の新聞報道とかでは意外に訳に苦労しているように感じる。「Nexus」とは、国(米国では国同様の州も)が自国の法律を誰かに行使しようとする際に、その者が法律を行使されるに足ると判断されるその国との「最低限の接触」を持っているということ、すなわち法的管轄権のことだ。高級車のブランドや法律のリサーチをする際のOnlineツールと勘違いしないようにね。
Market Intangibleに賛同する者がおおいのは、Market Intangibleの考え方、簡単に言えばDistribution等の活動にまずルーティン所得を配賦し超過利益はスプリットするというもの、は既存の国際課税・TPの考え方に一番近いという理由もあるだろう。従来の考え方から余りに逸脱するルールでは混乱がより大きい。米国財務省は、各国による一方的なDSTは、経済的な利益とは関係のないグロスベースで論じられることが多く、米国側でFTC不適格の可能性が高く、また条約上の取り扱いも不明、等諸々の理由で国際課税フレームワークの中での取り扱いが不透明で、かつDSTが米国企業狙い撃ちしているのは明らかでけしからん、ということで、グローバルコンセンサスが得られるのであれば「積極的」にOEDCの議論には参加する一方、一方的なDSTには断固反対を明言している。その上で、ピラー1の中では上述のような理由でMarket Intangible案を渋々(?)容認している。グローバルレベルで何か合意しておかないと、各国独自のDSTで米国企業が狙い撃ちされるので、グローバル・コンセンサス作りに積極的に参加する流れは自然。ALPとは必ずしも整合性のない利益配賦に同調した点に驚愕した向きもあると思うけど、結局は同調せざる得ないのも、この期に及んで学術的な議論をしていても無駄、という認識があるからだろう。DSTは米国企業狙いではない、と各国が言っても「GAFAタックス」と言っている位だから(苦笑)、多くの負担は米国企業。
Intangibleに基づく超過利益をどのように算定するか、云々の具体的な話しは「Secretarial Proposal」の性格を考えると、時期尚早だと思うけど、一つ想定・期待されるのは、米国が税制改正でGILTIおよびFDIIのセットで米国が国外事業をどこから展開しても米国税務上はニュートラルとした際に、有形償却資産の税務簿価x10%を超過する額はIntangibleからの超過利益と法的に認定したように、各国に配賦対象となる超過利益の算定は「解釈の余地がない機械的な算定法」に「世界中の国」が合意する必要がある点を明確にすることだろう。できるかな?Imagineじゃないけど「Wonder if you can...」。経済的に超過利益がいくらなのか、という話しは、今後の議論の流れの中では無意味で、GILTI・FDIIのように、一定の少額部分の利益を除き、全ての所得が超過利益とみなされると考えておけばいいし、どんなに乱暴な算定法でも各国がそれに合意することの方が重要。予見可能性と係争の最小限化が企業の願うところだろう。
OECDによりパンドラの箱は開けられてしまったので、日本や日本企業として提言していくべき点は、何をもって課税権を行使できるか、どのように利益を配賦するかという2点に関して、極力機械的なフォーミュラに世界中が合意しないといけないという点の強調。そして、それでも係争は後を絶たないだろうから、強固なDispute Resolutionを構築していくこと。これらが日本企業からみたベストなインプットだろう。Dispute Resolutionて言っても、国内の話しだったら法律があり、罰金・禁固・資産没収とかのリコースがあるけど、国家間のDispute Resolutionは、「こんな判定はただの紙切れ」とか言ってその結果に従わない国が出てきたときにどうするのか。まさか戦争したり経済制裁を加えてEnforceする訳にもいかないだろうし。問題は山積み。
という訳で、「Secretarial Proposal」に対する第一印象でした。ピラー2はこれからだけど、そのモデル(?)となっているGILTI(FDIIとのセット)は米国外ではその趣旨が良く理解されていないと思うので、その心は今後機会があったらポスティングしていきたい。NYCとかでEYの日本語セミナーに来てくれた方は散々聞かされてるからもういい、って感じかもしれないけど懲りずによろしくね。
各論には賛否両論あると思うけど、今後の国際課税ルールに関してグローバルで原則的なコンセンサスを得ないといけないっていうのはその通りで、そのためにOECDがInclusiveに頑張っている中での「Secretarial Proposal」。企業側もとにかく「予見可能性」を高めてもらいたい訳だからグローバル・コンセンサスは基本ウェルカムなはず。問題はそのようなコンセンサスは幻想的とまでは言わないまでも、玉石混淆の世界では達成がとても難しいという点だろう。
まず第一に、忘れてはいけないのはこの「Secretarial Proposal」の位置づけ。これで世界が終わっちゃったり、各国が法律を制定するというものではなく、今後、関係諸国と調整を進めるためのステージ作りと考えるといいだろう。決してテクニカルな部分を詳細に規定するような意図はなく、むしろポリティカルにグローバルコン・センサスを取り付ける前提を提示しているものと言える。
OECDがアグレッシブなタイムスケジュールで事を推し進めている背景には、さっさとグローバル・コンセンサスを取り付けないと、セッカチな国やEUとかが独自のDST導入を決定・検討する流れがあり、そのような状況を放っておくと国際課税システムの無秩序化が必至という厳しい現実がある。今回、OECD側の予定通りの進展を誇示することで、各国を牽制する目的があるはず。何らかのハイレベルな原則に基本合意できれば、勝者と敗者が必ず混在する新国際課税ルールに関して、敗者側の納得感を担保し易くなる。テクニカルにいかに完璧でも、各国のポリティカルな事情でコンセンサスに至ることができなければ砂上の楼閣となってしまい、せっかくの試みが瓦解するのは素人でも想像に難くない。まずは比較的シンプルな原則に関してポリティカルなコンセンサス取り付けに注力するしかないだろう。
先に公開されていたピラー1では、「ユーザーベース、Market Intangible、デジタルPE」という3つのアプローチが提案されてたけど、3月にパリで開催されたヘアリングその他の各界からのインプットに基づいて、基本的なアプローチはMarket Intangibleに集約されてきている。他の2案がどちらかというと未焼成の状態にあったと言えるので、これは大方予想通り。ユーザーベースは対象が狭義(GAFA等)で、長期的な国際課税フレームワークとしては若干Sustainabilityに欠ける観があったし、そもそもユーザーがどこの国に居るという判断をどうやってするのか、っていう米国FDIIのユーザー地証明義務に準じる実務的な問題が付きまとう。第三の「拡大PE案」は、そもそもピラー1では物理的PEなしでも課税と言うのが大原則だったはずなので、それ以上のインパクトや具体性に乏しく、今から第三の案をじっくり時間を掛けて構築してヒマはない、ということで消去法(?)に基づきMarket Intangibleに。
ピラー1の大前提である物理的なプレゼンスがなくても各国に課税権を認めるという議論は、米国の2018 年の最高裁判決South Dakota v. Wayfairにも通じるものがある。Wayfairは米国の憲法下でのSales Tax徴収の話しで、憲法のような法的なフレームワークが存在しない世界各国に同様の議論を適用するのは施行面でチャレンジ度合いが段違いに高いけど、概念的には同じ方向。PEという用語は物理的プレゼンスが求められるように感じるケースが多いせいか、最近は代わりに「Nexus」という用語が使われることが多い。米国では州の課税権や、他の民法上の裁判管轄権の話しで古くからよく使う用語なので馴染み深いけど、日本の新聞報道とかでは意外に訳に苦労しているように感じる。「Nexus」とは、国(米国では国同様の州も)が自国の法律を誰かに行使しようとする際に、その者が法律を行使されるに足ると判断されるその国との「最低限の接触」を持っているということ、すなわち法的管轄権のことだ。高級車のブランドや法律のリサーチをする際のOnlineツールと勘違いしないようにね。
Market Intangibleに賛同する者がおおいのは、Market Intangibleの考え方、簡単に言えばDistribution等の活動にまずルーティン所得を配賦し超過利益はスプリットするというもの、は既存の国際課税・TPの考え方に一番近いという理由もあるだろう。従来の考え方から余りに逸脱するルールでは混乱がより大きい。米国財務省は、各国による一方的なDSTは、経済的な利益とは関係のないグロスベースで論じられることが多く、米国側でFTC不適格の可能性が高く、また条約上の取り扱いも不明、等諸々の理由で国際課税フレームワークの中での取り扱いが不透明で、かつDSTが米国企業狙い撃ちしているのは明らかでけしからん、ということで、グローバルコンセンサスが得られるのであれば「積極的」にOEDCの議論には参加する一方、一方的なDSTには断固反対を明言している。その上で、ピラー1の中では上述のような理由でMarket Intangible案を渋々(?)容認している。グローバルレベルで何か合意しておかないと、各国独自のDSTで米国企業が狙い撃ちされるので、グローバル・コンセンサス作りに積極的に参加する流れは自然。ALPとは必ずしも整合性のない利益配賦に同調した点に驚愕した向きもあると思うけど、結局は同調せざる得ないのも、この期に及んで学術的な議論をしていても無駄、という認識があるからだろう。DSTは米国企業狙いではない、と各国が言っても「GAFAタックス」と言っている位だから(苦笑)、多くの負担は米国企業。
Intangibleに基づく超過利益をどのように算定するか、云々の具体的な話しは「Secretarial Proposal」の性格を考えると、時期尚早だと思うけど、一つ想定・期待されるのは、米国が税制改正でGILTIおよびFDIIのセットで米国が国外事業をどこから展開しても米国税務上はニュートラルとした際に、有形償却資産の税務簿価x10%を超過する額はIntangibleからの超過利益と法的に認定したように、各国に配賦対象となる超過利益の算定は「解釈の余地がない機械的な算定法」に「世界中の国」が合意する必要がある点を明確にすることだろう。できるかな?Imagineじゃないけど「Wonder if you can...」。経済的に超過利益がいくらなのか、という話しは、今後の議論の流れの中では無意味で、GILTI・FDIIのように、一定の少額部分の利益を除き、全ての所得が超過利益とみなされると考えておけばいいし、どんなに乱暴な算定法でも各国がそれに合意することの方が重要。予見可能性と係争の最小限化が企業の願うところだろう。
OECDによりパンドラの箱は開けられてしまったので、日本や日本企業として提言していくべき点は、何をもって課税権を行使できるか、どのように利益を配賦するかという2点に関して、極力機械的なフォーミュラに世界中が合意しないといけないという点の強調。そして、それでも係争は後を絶たないだろうから、強固なDispute Resolutionを構築していくこと。これらが日本企業からみたベストなインプットだろう。Dispute Resolutionて言っても、国内の話しだったら法律があり、罰金・禁固・資産没収とかのリコースがあるけど、国家間のDispute Resolutionは、「こんな判定はただの紙切れ」とか言ってその結果に従わない国が出てきたときにどうするのか。まさか戦争したり経済制裁を加えてEnforceする訳にもいかないだろうし。問題は山積み。
という訳で、「Secretarial Proposal」に対する第一印象でした。ピラー2はこれからだけど、そのモデル(?)となっているGILTI(FDIIとのセット)は米国外ではその趣旨が良く理解されていないと思うので、その心は今後機会があったらポスティングしていきたい。NYCとかでEYの日本語セミナーに来てくれた方は散々聞かされてるからもういい、って感じかもしれないけど懲りずによろしくね。
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