メインコンテンツに移動

「デジタル課税」絶妙のタイミングでUnited Nations登場

Max Hata
前回のポスティングでは、ユーザー国が言うところの「Fair Share」はいくらか、っていうピラー1が解決しようとしている根本的な問題に関して、ユーザー参加の価値の有無や、もし価値がある場合にはその適切な測定法に関して合理的な議論が尽くされる前に、恣意的に一律%が独り歩きして無理なタイミングでグローバルコンセンサスを取り付けようとしている点がピラー1の停滞の原因の一つではないか、っていう点に触れた。

そんな停滞感漂う中、国際機関の大御所、国連(United Nations)が満を持して、というか絶妙のタイミングで独自のデジタル課税案を公表している。

United Nationsには「UN Economic and Social Council (ECOSOC)」(「国連経済社会理事会」)の一部に「Committee of Experts on International Cooperation in Tax Matters」っていう国際税務専門委員会があり、1968年からクロスボーダー課税に関するグローバルの調和を促進してきた。最近は参照する頻度が減ってる感はあるけど、OECDや米国モデル同様、UNも独自のモデル条約を策定している。ECOSOCにしても国際税務委員会にしても、発展途上国の多くが理事国を形成してるから、当然それらの国の意見がより強く反映され易くなる。このUN専門委員会、本来ならグローバルのデジタル課税の議論に最適なフォーラムだけど、BEPS以降、OECDがクロスボーダー課税にかかわる世界の警察みたいな存在になりつつあり面白い展開だなと思ってことの進展ぶりを見守っていた。各国が主権国家でありながら、経済のデジタル化を鑑み、課税ポリシーや税率の決定権をOECDに献上してしまってもいいと判断しているんだったら、それはそれでいいんだけどね。

6月後半に開催されたUN専門委員会のバーチャル会議を経て8月5日にUNモデル条約の12条にひとつだけ規定を加える、っていうとてつもないシンプルな一撃で当面のデジタル課税論に解決を図っている。う~ん、長編のOECDブループリント読んだ後だけにそのシンプリシティに感動。もちろんシンプルなだけに不足面もあるけど、発展途上国が複雑なピラー1や2に対応するためのリソースを用意できるとは思えず、どっちにしてもユーザー参加の価値とかにかかわる強固なテクニカルな議論なしに課税ありきで、また当面は各国独自の「Unilateral」なDSTに調和を図るっていうメカニズムを模索してるんだったら、なるほど、こういう代替案もあり得るよね、って目から鱗が落ちる感じの斬新な提案だ。

この前からチラッと触れてるけど、United Nationsはここに来て急にデジタル課税に目覚めた訳ではない。BEPSのアクション1やBEPS 2.0の議論が進む中、実行可能性やグローバル・ポリティクスの観点からその内容を辛抱強く静観していたことだろう。United Nationsとしては一枚しかないJokerをいつ切り出すか、っていうタイミングを虎視眈々と狙っていたとも言える。千軍万馬いうか飽経風霜というか、裏の裏まで知り尽くした強者かつトリッキーなプレーヤーが混在するグローバル・ポリティクスにおいて、何事もタイミングが肝心なのは百戦錬磨のUnited Nationsは百も承知。時期尚早に登場すると、OECDの議論にかき消され存在感を出せない一方で、後手に回るとルール策定に関与できないもんね。

United Nationsのアプローチは、ピラー1との比較において、クロスボーダー課税制度そのものに変革をもたらすというような大胆な意図は感じられない。そんなRevolutionは短期には達成できない、という経験に基づき、その気になれば今日から即実践可能な暫定措置を代替案として提案しているように見える。特に後進国にとって実践可能かどうかという点は実務的に重要な課題。

で、長期的には5条のPEの定義にデジタルサービスを加える方向としながら、当面はDST紛いの税金を公認し、条約の一部に加えることで不確実性や二重課税の問題に対処しようとしている。条約でカバーするんで23条を通じてFTCが取れる点も自然に明確になる。当初は2017年UNモデル条約に規定される源泉税条項12A条の「Technical Services」にオンライン広告にかかわる支払いも対象内と解釈することで文言の修正もなく、DSTに調和をもたらすことができる、みたいな議論もあった。

これは賢いアプローチで、各国のDST対象はバラバラで多岐にわたるけど、共通ターゲットとして絞り込んでいくとオンライン広告が主になる。United Nationsの感覚だと、現時点で他のデジタル経済、増してや伝統的な事業に対する課税は緊急課題ではない、っていう認識があるんだろう。PEの定義変更やオンライン広告以外の取引にかかわるGame Changer的な改定は時間を掛けて要検討と位置付けている。GoogleやFacebookの収入源は言うまでもなくオンライン広告だし、Amazonの収益に占めるオンライン広告の比率も高まってるとして、Google Ireland Ltd.がフランスと係争した際に開示されているビジネスモデルをベースに、B2B部分のサービスFeeに源泉税を課せば、当面は皆落ち着くんじゃない?的なアプローチが模索されていた。

そんなアプローチ下では、既存の 12A自体はそのままで、オンライン広告のFeeはテクニカルサービスに含まれるとすればそれで済む話しと言える。面倒な売上基準やAmount AとALPの超過利益との相殺とかがないので極めてシンプルだ。このシンプルさは偶然ではなく、ピラー1の内容を精査し、発展途上国の率直な意見を取り入れた上でのアンチテーゼ的なものと考えられる。

で、8月5日に実際に公開されたドラフトは12A条「Fee for Technical Services」をそのまま使用するのではなく、その直後に12B条「Income from Automated Digital Services」を新設している。12A条自体、ロイヤルティをカバーする12条のサブセットだけど、ロイヤルティには当たらない「テクニカルサービス」にかかわる対価は、事業所得に当たると考えられるがPE規定をオーバライドして所得源泉地で源泉税を課してもいいという制度。PEがなくても源泉地課税を認めている点、ピラー1に通じるかなり先進的な規定だ。新設12B条では、対象をオンライン広告に限定するのではっていう前評判とは異なり、自動化デジタルサービス(ADS)にかかわる支払い全般を対象としている。

次回はこの12条Bに関してもう少し。

コメントを追加

認証
半角の数字で画像に表示された番号を入力してください。