2010年1月26日にいきなり何の前触れもなくIRSが発表した「Notice 2010-9 Uncertain Tax Position」は驚きと共に「やっぱりIRSも知りたかったんじゃん・・・」という当然かな、という気持ちが入り混じったものだった。
*FIN 48と不確実な税務申告ポジション
申告書に盛り込まれている費用その他の税務ポジションのうち、税法上は申告書への計上が認められているが、IRS等の税務当局が必ずしも合意しないかもしれない不確実なポジションを会計上開示するFIN 48に関しては過去のポスティングでかなり詳細に触れてきた。詳しくは2007年7月からのシリーズ「グレーな申告ポジションの会計処理」を参照して欲しい。SEC企業以外にも2009年度から強制適用となるため、慌ててFIN48の文書化をしている最中っていう日本企業も多いことだろう。
また、FIN 48を含む会計上の税務費用計算(いわゆるTax ProvisionとかTax Accrualと呼ばれる作業)の基となるワークペーパーはIRSは「税務調査でも見ない」っていう紳士協定のようなスタンスを公にしていた。また、会計事務所が作成するTax Provisionのワークペーパーに対して秘匿特権が認められるかどうかも法定で争われている。こちらは2007年8月の「Textronケース・・・」を参照して欲しい。
*Notice 2010-9
潜在的に税務調査のロードマップとなるFIN 48に係るワークペーパーを敢えて「税務調査でも見ません」という従来の姿勢は、本来IRSとしては喉から手が出る程欲しい情報であろうだけにさすがアメリカの税務当局は「懐が深いな・・・」と思わせるものがあった。
しかし、そのようなナイーブな感慨をいきなり打ち崩したのがNotice 2010-9だ。Noticeによると、ナンとIRSはFIN 48と同じ基準で納税者が自ら特定した不確実な税務ポジションを開示するための特別なForm (様式)のデザインに既に着手しているとのことだ。IRSの本性現る、って感じだ。
従来のIRSのスタンス等に関しては以前2007年8月に「IRS税務調査に与える影響」で触れているのでぜひそちらにも目を通して欲しい。
*申告ポジションとの関係
以前のポスティングで何回か触れている通り、申告書で取ることができるポジションに求められる法的な確証度は約40%(Substantial Authority)と結構低い。従来はこの確証度を守っている限り、例えFIN 48に引っかかるポジションがあったとしても、申告書上何もする必要がなかった。
法的確証度が40%に満たないポジションは申告書に法的に盛り込めない(または十分な開示を伴って申告書に反映させる)こと、またFIN 48は50%超の確証度が分かれ道となることから、簡単に言ってしまうと、確証度が40%はあるが50%はないというようなポジションが今回IRSが求めている開示の対象となる。
FIN 48は法的分析に基づく「Recognition」の判断に加えて、「Measurement」の判断を伴う。税法的に考えるとRecognition規定の部分だけにフォーカスしそうなものだが、Noticeによると、潜在的にIRSに否認される可能性のある最高金額を開示する必要あるようで、この金額の判定も納税者にも大きなプレッシャーを与えることとなるだろう。ぱっと読んだだけなのでよく分からないが、この開示基準はFIN 48のMeasurementの開示基準よりもっと厳しいようにも思える。
なお、開示の対象となるのは資産が少なくとも$100,000超ある法人となる。
*開示の内容
開示の内容は「不確実な税務ポジションの簡潔な説明」と「潜在的に調整の対象となる可能性がある最高金額」で構成される。
何が簡潔な説明に当たるかに関しては「IRSがポジションの性格を正確に把握できる程度のもの」ということで、具体的には税法セクション番号、影響を受ける年度、ポジションが所得・費用・クレジット・資産売却損益のいずれに関係するものか、永久差異か一時的差異か、有形無形の資産評価に係るものか、資産の税務上簿価に関係するものか、を記載しなくてはならないとしている。
*ペナルティー
開示義務が規定されるということは、開示不履行に対するペナルティーも規定されることが予想される。Noticeではペナルティーを条文で法制化するよう議会に働きかけるのもオプションとして考えられるとしている。
*法的なチャレンジ
IRSが規定するポリシーとかNoticeとかはそれそのものは法律ではない。あくまでも税法は「Internal Revenue Code」であり、IRSとは言え法律そのものを逸脱する権利行使は憲法上認められない。
税法で40%の確証度があれば申告していいと規定されているにも係らず一方で50%の確証度がないものを開示させるというのは法律違反ではないか、というような訴訟が起こる可能性もあるが、納税者の勝ち目はかなり低いものと思われる。
*今までの紳士協定との関連
Noticeで面白いのは不確実な税務ポジションの開示Formを開発している一方で、これ以外の部分では現状通り税務調査でワークペーパーの開示をリクエストしたりしない、と格好よく宣言していることだ。どのような不確実な税務ポジションがあるのか開示させて知ってしまった以上、ワークペーパーをも見る必要は相当低くなるであろうことから、このコメントには何となく釈然としないものがある。
*開示の目的
これらの開示を通じてIRSはより効率がよく、かつ迅速な税務調査が可能となるとしている。ある意味、納税者が毎年、申告書を作成する過程で自ら税務調査を実行してその結果を報告するに近いシステムとなることから、もちろんIRSによる税務調査は「効率よく迅速」となるだろう。Form M-3で会計上の利益との差異を裸同然に公開して、さらに不確実な税務ポジションを自ら白日の下にさらすとなると、申告書上に反映させるポジションの選択にはかなりの冷却効果となるだろう。
IRSは緊急に様式を最終化させるという。その理由は「IRSにとっても納税者にとっても重要な問題だから」というチョッと分かり難いものだ。そのため、何かコメントがあれば3月29日までに出すように、と締め括っている。現時点で開示が求められている訳ではないが、2010年の申告書提出時には8900番台の新しいFormの添付が義務付けられている可能性が高い。それにしても次から次にFormができて そのうち全てのForm が5桁にならないように、と願ってしまう。
*FIN 48と不確実な税務申告ポジション
申告書に盛り込まれている費用その他の税務ポジションのうち、税法上は申告書への計上が認められているが、IRS等の税務当局が必ずしも合意しないかもしれない不確実なポジションを会計上開示するFIN 48に関しては過去のポスティングでかなり詳細に触れてきた。詳しくは2007年7月からのシリーズ「グレーな申告ポジションの会計処理」を参照して欲しい。SEC企業以外にも2009年度から強制適用となるため、慌ててFIN48の文書化をしている最中っていう日本企業も多いことだろう。
また、FIN 48を含む会計上の税務費用計算(いわゆるTax ProvisionとかTax Accrualと呼ばれる作業)の基となるワークペーパーはIRSは「税務調査でも見ない」っていう紳士協定のようなスタンスを公にしていた。また、会計事務所が作成するTax Provisionのワークペーパーに対して秘匿特権が認められるかどうかも法定で争われている。こちらは2007年8月の「Textronケース・・・」を参照して欲しい。
*Notice 2010-9
潜在的に税務調査のロードマップとなるFIN 48に係るワークペーパーを敢えて「税務調査でも見ません」という従来の姿勢は、本来IRSとしては喉から手が出る程欲しい情報であろうだけにさすがアメリカの税務当局は「懐が深いな・・・」と思わせるものがあった。
しかし、そのようなナイーブな感慨をいきなり打ち崩したのがNotice 2010-9だ。Noticeによると、ナンとIRSはFIN 48と同じ基準で納税者が自ら特定した不確実な税務ポジションを開示するための特別なForm (様式)のデザインに既に着手しているとのことだ。IRSの本性現る、って感じだ。
従来のIRSのスタンス等に関しては以前2007年8月に「IRS税務調査に与える影響」で触れているのでぜひそちらにも目を通して欲しい。
*申告ポジションとの関係
以前のポスティングで何回か触れている通り、申告書で取ることができるポジションに求められる法的な確証度は約40%(Substantial Authority)と結構低い。従来はこの確証度を守っている限り、例えFIN 48に引っかかるポジションがあったとしても、申告書上何もする必要がなかった。
法的確証度が40%に満たないポジションは申告書に法的に盛り込めない(または十分な開示を伴って申告書に反映させる)こと、またFIN 48は50%超の確証度が分かれ道となることから、簡単に言ってしまうと、確証度が40%はあるが50%はないというようなポジションが今回IRSが求めている開示の対象となる。
FIN 48は法的分析に基づく「Recognition」の判断に加えて、「Measurement」の判断を伴う。税法的に考えるとRecognition規定の部分だけにフォーカスしそうなものだが、Noticeによると、潜在的にIRSに否認される可能性のある最高金額を開示する必要あるようで、この金額の判定も納税者にも大きなプレッシャーを与えることとなるだろう。ぱっと読んだだけなのでよく分からないが、この開示基準はFIN 48のMeasurementの開示基準よりもっと厳しいようにも思える。
なお、開示の対象となるのは資産が少なくとも$100,000超ある法人となる。
*開示の内容
開示の内容は「不確実な税務ポジションの簡潔な説明」と「潜在的に調整の対象となる可能性がある最高金額」で構成される。
何が簡潔な説明に当たるかに関しては「IRSがポジションの性格を正確に把握できる程度のもの」ということで、具体的には税法セクション番号、影響を受ける年度、ポジションが所得・費用・クレジット・資産売却損益のいずれに関係するものか、永久差異か一時的差異か、有形無形の資産評価に係るものか、資産の税務上簿価に関係するものか、を記載しなくてはならないとしている。
*ペナルティー
開示義務が規定されるということは、開示不履行に対するペナルティーも規定されることが予想される。Noticeではペナルティーを条文で法制化するよう議会に働きかけるのもオプションとして考えられるとしている。
*法的なチャレンジ
IRSが規定するポリシーとかNoticeとかはそれそのものは法律ではない。あくまでも税法は「Internal Revenue Code」であり、IRSとは言え法律そのものを逸脱する権利行使は憲法上認められない。
税法で40%の確証度があれば申告していいと規定されているにも係らず一方で50%の確証度がないものを開示させるというのは法律違反ではないか、というような訴訟が起こる可能性もあるが、納税者の勝ち目はかなり低いものと思われる。
*今までの紳士協定との関連
Noticeで面白いのは不確実な税務ポジションの開示Formを開発している一方で、これ以外の部分では現状通り税務調査でワークペーパーの開示をリクエストしたりしない、と格好よく宣言していることだ。どのような不確実な税務ポジションがあるのか開示させて知ってしまった以上、ワークペーパーをも見る必要は相当低くなるであろうことから、このコメントには何となく釈然としないものがある。
*開示の目的
これらの開示を通じてIRSはより効率がよく、かつ迅速な税務調査が可能となるとしている。ある意味、納税者が毎年、申告書を作成する過程で自ら税務調査を実行してその結果を報告するに近いシステムとなることから、もちろんIRSによる税務調査は「効率よく迅速」となるだろう。Form M-3で会計上の利益との差異を裸同然に公開して、さらに不確実な税務ポジションを自ら白日の下にさらすとなると、申告書上に反映させるポジションの選択にはかなりの冷却効果となるだろう。
IRSは緊急に様式を最終化させるという。その理由は「IRSにとっても納税者にとっても重要な問題だから」というチョッと分かり難いものだ。そのため、何かコメントがあれば3月29日までに出すように、と締め括っている。現時点で開示が求められている訳ではないが、2010年の申告書提出時には8900番台の新しいFormの添付が義務付けられている可能性が高い。それにしても次から次にFormができて そのうち全てのForm が5桁にならないように、と願ってしまう。
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