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グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(1)

Max Hata

一昨日(2009年10月15日)IRSは「Notice 2009-85」を発表し、市民権または長期保有グリーンカードを放棄する際の米国税務取り扱いの詳細を明らかにした。

ちょうど、この日クロスボーダーのタックス・プラニングの一環で、米国企業が外国に「移民」する「Inversion取引」に係る検討をしていたところに、このようなNoticeが発表になり、「法人も一旦米国企業となると外国企業に変身するのは大変だが、個人も楽ではないな・・・」という感想を持ってしまった。

*市民権放棄とグリーンカード放棄

今回のNoticeおよびその基となる税法であるSec.877Aは元々「米国市民が市民権を返上して外国人となる」という局面に対する規定であるが、この考え方は全く同様に「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」という局面にも適用される。日本人の方は圧倒的にグリーンカード放棄という局面での対応が多いことから、今回のポスティングでは単純にグリーンカード放棄という表現を用いることが多いが、市民権放棄にも基本的には同様の検討が必要となる。

上の「米国市民が市民権を返上して外国人となる」とか「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」というシナリオは、IRSからみると「今まで全世界所得に対して税金を支払ってくれていた納税者が米国源泉の所得にしか税金を支払わない儲けの少ない納税者に変身してしまう」ということを意味する。

タックス・プラニングのために市民権まで放棄してしまう、または米国企業から外国企業になってしまう、というところからして日本的な考え方ではチョッとついていけないと思われる方もいるかと思うが、実際には結構行われているプラニングだ。法人の国外脱出であるInversion取引は徐々に網が掛けられ、Sec.367シリーズに続き、ここ数年はSec.7874があるので容易には実行できなくなっている。

*なぜ放棄が問題とされるか?

個人が市民権とかグリーンカードを放棄した後でも、米国源泉所得には米国の課税権が残る。すなわち、いくらグリーンカードを放棄しても、米国で勤労所得があったり、米国不動産から所得があったりしたら引き続き米国で課税される。であれば、わざわざ市民権とかグリーンカードを放棄したのだから、米国政府もそれで我慢しておけばいいと思われるかもしれない。

しかし、この「米国源泉」所得というところに大きな「オチ」があり、そのためにこのような複雑な取り扱いが規定されていると言っても過言ではない。そのオチとは非居住者(=米国市民でもなく、グリーンカードも持っておらず、米国滞在がそんなに多くない外国人)が認識する不動産以外の資産(=動産)からのキャピタルゲインは、その動産が米国に関係するものであっても、非居住者が外国に生活拠点を持っている限り米国から見ると「外国源泉」所得となるという点だ。

動産というと自動車とか家具とか「そんなものからキャピタルゲインなんてないのでは?」と思われるかもしれないが、動産には「株式」「債券」が含まれる。すなわち、Google、Microsoft、GM等の米国株式でも、それを非居住者が売却した際に発生するキャピタルゲインは米国では課税されない(もちろんGMからキャピタルゲインは最近はなかったかもしれないが・・・)。一方で米国市民または居住者(グリーンカード保有者は常に居住者)のままキャピタルゲインを認識すると総合課税で全て課税対象となる。個人の認識するキャピタルゲインは現状で15%が最高税率で歴史的に通常所得より低い税率で課税されることが多いが、ゼロの税金と比べると高い。

非居住者が住んでいる本国でキャピタルゲインが課税されるケースももちろんあり得るが、もし市民権・グリーンカード放棄の動機がタックス・プラニングであれば、わざわざ米国脱出した後に高税率国(例、日本!)に移り住む輩もいないだろう。所得税がないか、またはあっても税率が極端に低いカリブ海の島とかでゆっくりと余生を過ごす、とか、香港みたいに外国源泉所得とかキャピタルゲイン自体が非課税となる国で広東料理三昧というようなイメージではないだろうか。

*グリーンカード放棄時の取り扱い

グリーンカード放棄時の税務上の取り扱いは2008年6月17日に大きく変更になっている。この辺りに関しては次のような過去ポスティングがあるので興味ある方はぜひ閲覧して欲しい。今回のポスティングはそれを受けて、一昨日発表された詳細規定に触れる。

グリーンカードとアメリカの税金(2007年4月22日)
グリーンカード放棄と米国タックス(1)(2007年7月6日)
グリーンカード放棄と米国タックス(2)(2007年7月6日)
グリーンカード放棄と米国の税金「Update」(2008年6月17日)

次回のポスティングではNotice 2009-85の具体的な内容に関して触れる。

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