ロムニー共和党候補の発言から、「アメリカ人の47%は連邦所得税を一切払わない」という事実がまた取りざたされている。
少し前のTax Policy Center(*)のレポートに、この46%(これは2011の数字、ロムニー候補の47%はもう少し前のもの)が連邦所得税を払わずに済む事情が説明されている。
この46%の半分、23%は、ただ単に所得が低いため(大まかに見て年収20~25K以下)、特別な税特典など使わなくてもStandard Deductionや通常のExemptionで連邦所得税がゼロになる層。
ちなみに、これらの%は、タックスリターンをファイルする世帯(低所得等でタックスリターンをファイルする義務の無い世帯も含め)を数えて計算されている。なので、生活保護を受けている層やWorking Poorに加えて、失業者、リタイアした老人、パートで働く学生といった世帯も計算に入っている。
アメリカは貧困層の底が深く広いというのに加えて、この計算の母集団が非常に広く定義されているというのも、この46%の謎解きの一つ。
残りの23%は何らかの税特典を利用して連邦所得税がゼロになる。その内訳は:
10% 老人世帯向けの所得控除やクレジットを利用
7% Earned Income Tax CreditやChild Tax Creditを利用
6% 項目別控除やEducation Creditなど他の税特典を利用。
Social Security Retirement Benefitも、年収次第で一部なりが非課税になるし、65歳以上の老人世帯には、特別の控除や税クレジットが適用される。
Earned Income Tax Creditは、生活保護に頼るより働くことを奨励するため、低所得世帯の勤労所得に政府が税クレジットでおまけをつける制度。例えば、子供二人のシングルマザー世帯だと勤労所得17K程で$5000ちょっとの税クレジットがもらえる計算。勤労所得が17Kを越えると税クレジットは徐々にPhase-outされ、41Kに達した辺りでゼロになる。「働いて稼いだら、税援助がもらえる」というコンセプトが、いかにもアメリカ的ですよね。
一方、Child Tax Creditは子供一人に付き$1000もらえる税クレジット。年収110K(既婚家庭)あたりまでもらえるので(それ以上はPhase-out)、ミドルクラス世帯の多くも恩恵を受けている。子供二人で標準控除を使う既婚世帯でも、年収45K辺りまでこのChild Tax Creditで連邦所得税が0になる計算。
Earned Income Tax Creditと場合により一部のChild Tax Creditは、Refundable Creditというやつで、所得税からこれらTax Creditをさっぴいてマイナス額になると、それはタックスリファンドして送られてくる。よくアメリカ人が「タックスリファンドが来たら、あれしてこれして」と言っているのを聞くのは、源泉を多めに設定している人もいるが、これらのTax Creditのリファンドを期待している場合もある。
なんだかんだ言っても、この「連邦所得税ゼロ・クラブ」の80%は年収30K以下。あとは、Child Tax Creditや他の所得控除・税クレジットが一部のミドルクラス世帯(その多くはLower-Middle層)をこのクラブに参加させている。
また、「連邦所得税ゼロ・クラブ」のメンバーの6割は、働いて得た所得からSocial SecurityやMedicareなどのPayroll Tax(自営の場合はSelf-Employment Tax)を払っている。また、連邦所得税を払っていなくても、州所得税・消費税・固定資産税を払って人達もいるかもしれない。
こういった数字ひとつの裏にも、アメリカの税制や社会構造が複雑に絡み合ってるってことなんでしょうかね。
(*)アメリカのシンクタンクはそれぞれ政治的傾向があるが、Tax Policy Centerはコンサバ派のUrban Instituteとリベラル派のBrookings Instituteの共同リサーチベンチャーで、比較的中道と見られることが多い。
確かに構造的な問題をあらわしている1つの数字ですよね。何と
Nobu 2012/09/26(水) - 13:04確かに構造的な問題をあらわしている1つの数字ですよね。何とか、まじめに払っている人が馬鹿を見ないような制度にして欲しいです。。。
>Nobuさん 複雑な所得税制、分厚い低所得層、福祉制度と
ポピー 2012/09/26(水) - 16:16>Nobuさん
複雑な所得税制、分厚い低所得層、福祉制度と、色んな問題が絡み合ってるので、解決の糸口を見つけるのも大変そうです。
>何とか、まじめに払っている人が馬鹿を見ないような制度にして欲しいです。。。
本当にそうですよね。
所得分布を見ると、貯金できるのはかなり恵まれてる方なんだとは思うけど、倹約して貯金したり堅実に暮らしたりする人達が、税法や他の制度で馬鹿を見ているような気がすることもあります。
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