控除の仕組み
控除とは、課税対象になる収入額を決めるため、実際の収入から金額を引いていくことです。実際の収入が$40,000で、控除が$7,000なら、課税対象額は$33,000になります。払わなければいけない税額はこの$33,000を元に計算されます。控除はこのように実際の収入が控除額分だけ無かった事にする効果があるといえるでしょう。後に述べるクレジット(Credit)は控除と違い、税金の額が計算された後に、その税額をあたかも払ったかのようにしてくれる効果があります。クレジットと控除ではその効果が違いますので、注意してください。
標準控除 (Standard Deduction)
標準控除とは、他に控除するものが何もなくても自動的に収入額から引くことができる控除です。2007年分の標準控除は独身(Single)で$5,350、夫婦(Married filing jointly)で$10,700になります。年収が$40,000だった夫婦は、他に何も控除するものがなくても$29,300を元に税額が計算されます。
項目別控除(Itemized Deduction)
項目別控除(Itemized Deduction)とは、控除対象になる費目をすべて個別に申請し(Itemized)、控除を受けるものです。控除の対象になる費目の合計額が標準控除よりも少なければ標準控除を選択し、項目別控除の合計額のほうが大きければこちらを選択します。つまり、自分で計算し、どちらか得になる方を選択することができます。また、特別の理由があって標準控除よりも低い額で項目別控除を選択することも可能です。 項目別控除には主に次のような費目があります。
- 地方税
- 特定の利息負担
- 寄付
- 医療費
- その他
州、市などの所得税、固定資産税、外国での税金などは控除になります。外国での税金はForeigen Tax Credit を選択したほうが得になる場合も多いので注意が必要です。また、車の価値に比例して毎年掛かる Excise Tax などの資産税も控除になる場合があります*1。 特定の利息負担とは、主にMortgage(住宅ローン)、Home Equity Loan(家が担保になっているローン)、Student Loan(学費ローン)などの利息部分です。アメリカの一般家庭で項目別控除を選ぶ人のほとんどはこれらのローン利息負担が控除の大きな割合を占めると思われます。 寄付はアメリカでは盛んで、特に年末になると「控除になりますよー。寄付しましょう!」というコマーシャルがラジオやテレビで流れます。寄付が控除になるのは非営利団体など条件が決まっています。寄付は現金以外に、現物、例えば衣類、車、家庭用品なども認められる場合があります。 医療費は控除になるのですが、収入(正確にはAGI=Adjusted Gross Income)の7.5%以上にならないと控除できません。例えば年収$40,000だった場合、$3000以上の医療支出がないと控除できません。 その他の控除としては投資経費(投資した額ではなくて、それとは別に掛かった経費)、確定申告準備費用(会計士や会計ソフトなど)、転職費用などがあります。これもAGIの2%以上という制限があり、会計ソフト1本だけを控除する、といったことはできません*2。
累進課税と控除
日本と同様、アメリカでは所得税には累進課税(Progressive Taxation / Marginal Rate System)が適用されます。つまり、収入が増えると、増額分はより高い税率が適用されるのです。逆に控除は高い税率の収入分から適用されます。そこで、自分の税区分(Tax Bracket)が重要になってきます。自分の税区分に適用される最高税率を Marginal Tax Rate(限界税率)といいます。収入の増加も、控除もこのMarginal Tax Rateが適用されますから、このRateがいくらかを知ることは重要です。下記に執筆時点の税区分を示します。
Single | Head of Household | ||||
下限 | 上限 | 税率 | 下限 | 上限 | 税率 |
$0 | $8,350 | 10% | $0 | $11,950 | 10% |
$8,350 | $33,950 | 15% | $11,950 | $45,500 | 15% |
$33,950 | $82,250 | 25% | $45,500 | $117,450 | 25% |
$82,250 | $171,550 | 28% | $117,450 | $190,200 | 28% |
$171,550 | $372,950 | 33% | $190,200 | $372,950 | 33% |
$372,950 | 35% | $372,950 | 35% |
Married Filing Jointly | Married Filing Separately | ||||
下限 | 上限 | 税率 | 下限 | 上限 | 税率 |
$0 | $16,700 | 10% | $0 | $8,350 | 10% |
$16,700 | $67,900 | 15% | $8,350 | $33,950 | 15% |
$67,900 | $137,050 | 25% | $33,950 | $68,525 | 25% |
$137,050 | $208,850 | 28% | $68,525 | $104,425 | 28% |
$208,850 | $372,950 | 33% | $104,425 | $186,475 | 33% |
$372,950 | 35% | $186,475 | 35% |
自分のAGIだと、どのMarginal Tax Rateになるかを確認してください。この税率が収入が増えた分に対する税率でもあり、控除したときに節税できる税率でもあります。先の夫婦で$40,000の場合を例にすると限界税率(Marginal Tax Rate)は15%ですから、収入が$1,000増えても税金も$150増え(厳密には州税も増える)、実質の収入は$850しか増加しません。逆に$1,000分、控除できる項目があれば、税額が$150減ります。
控除の適用
控除の項目はいくつもあり、大きく分けるとItemize(項目別控除)をしなくても、控除が受けられるものと、Itemizeしないと控除が受けられないものがあります。 Itemizeしなくても控除が受けられる項目は、標準控除(Standard Deduction)を選択している場合でも、標準控除に追加して適用されるので、誰でも恩恵が受けられます。例えば学費ローンの利息に対する控除は、条件さえ満たしていればItemizeする必要はありません。 Itemizeしないと控除を受けられない例としてはMortgage(住宅ローン)が挙げられます。よく「住宅ローンの利息は節税になるからいい」という表現をしますが、これもItemizeをしてこそです。Itemizeできる項目の合計が標準控除よりも低くなってしまえば標準控除を選択したほうが得ですから、住宅ローンによる節税効果はありません。税金をそれだけで考えるのではなく、支出や収入と合わせて総合的に考える必要がある例と言えるでしょう。
*1:通常は車の価値に比例して掛かる税金だけが対象となるようです。
*2:もちろん、会計ソフト1本でAGIの2%を超えていたらできるかもしれませんが、よほど高い会計ソフトか、税金を払わなくていい位の低いAGIということになります。