アメリカのリタイアメント・プランの理論と実践の間には、グランド・キャニオン幅のひずみがあると、前に書いたことがある。
オンライン計算機がはじきだす、$ミリオン単位の目標額を忠実に達成できる人の%はそう多くない。その一方で、まとまった貯金ができないまま、Social Securityだけを頼りにリタイアする人達もかなりいる。
この巨大なひずみをどうするかは、金融業界の課題でもあり、投資信託・ブローカー会社Fidelityが最近打ち出した「(税込み)年収8倍分のリタイアメント資金を貯めるリタイアメント・プラン・ガイドライン」も、そのひずみを埋める努力のひとつ。
(老後事情は人様々だが、これは企業年金・公務員年金が無く、遺産相続の期待もなく、Social Securityと自己資金だけが頼りというケース。)
教科書的プランだと、リタイアメント資金の目標額はたいてい年収の11倍かそれ以上を設定している(12~15倍がよく聞く数字)。それに比べると、Fidelityの年収8倍はかなり低めの目標額。それで足りるかどうかは、議論の余地はかなりある。でも、
"Perfect" is the enemy of "good enough"
とヴォルテール先生もおっしゃってるし、当人をパニックさせないで「まあまあ、あきらめないで、ともかく8倍貯めるプランから始めてみましょう」と背中を押すプランだと理解している。
Fidelity: Age-Based Saving Guidelines
Fidelityの説明だと年収8倍の前に必ず"At Least"が付いているが、メディアではそのニュアンスが見事に抜け落ち、「余裕ある老後には、年収8倍が新しい親指ルール」といった感じで数字だけが一人歩きしている。
このガイドラインのミソは、25歳から401K貯蓄を始めて、67歳までに年収の8倍を貯めるのに、以下の表のような年齢毎のマイルストーンをその時点の年収の倍数で表していること。
年齢 | 達成額道標 |
25歳 | 年収の0倍 |
30歳 | 年収の0.5倍 |
35歳 | 年収の1倍 |
40歳 | 年収の2倍 |
45歳 | 年収の3倍 |
50歳 | 年収の4倍 |
55歳 | 年収の5倍 |
60歳 | 年収の6倍 |
67歳 | 年収の8倍 |
Fidelityは25歳で401Kに6%の拠出を始め、毎年1%ずつ増やしながら12%まで拠出率を引き上げ、会社から毎年3%のマッチをもらう例を挙げている。年収が毎年実質1.5%上昇し(プラスインフレ率2.3%)、ポートフォーリオが毎年確実に5.5%成長すれば(おそらく名目成長率。本当はそんな確実性ないのだけれど・・・)、67歳でリタイアするまでに、リタイア時点の年収の8倍が貯まる計算。
レイオフに遭ったり、学校に戻ったり、転職したり、人の年収・貯金の動きはスムースではないし、市場の上下もあるので、401Kのバランスもそうスムースに上昇するわけではない。
「だから、こんな表は意味無い」という人もいるが、逆に、だからこそ、こういったマイルストーンに時々照らし合わせて、自分の達成額は「いい線行ってる」「もう少し頑張らなきゃ」とか確認する意味があるかもしれない。「自分は8倍以上貯める!」という人は、マイルストーンの額をスケールすればよいのだし。
教科書的Withdrawal Rate 4%を使うと、年収8倍のリタイアメント資金は、年収の32%を補うことになる。Annuityを使えばもう少し%があがるかもしれない。
Fidelityは、年収8倍の資金とSocial Securityで、リタイア前の年収の85%を賄えると言っているんだけど(92歳まで生きることを前提)、この主張がちょっとトリッキーなんだよね。
Social Securityの受給額が、リタイア前の年収の何%を補うかは、その人の年収や家庭事情(既婚・未婚・共働き・専業配偶者等)による。一般に、年収が低いほどSocial Securityの受給額がリタイア前の年収を補う%は高くなる(年収からの概算表はこちら)。
だから、85%を達成できるか、また年収8倍で資金で充分かどうかも、個人の事情で色々ということ(85%必要ない人もいるし)。
でも、年収の2倍や3倍の資金よりは、8倍の方が断然良いに決まってる。
よい記事ですね、ありがとうございます!
ひ(ゲスト) 2012/10/16(火) - 22:44よい記事ですね、ありがとうございます!
この年齢毎の表は良いですね。これなら何とか出来そうという気
Nobu 2012/10/16(火) - 22:52この年齢毎の表は良いですね。これなら何とか出来そうという気がします。これが最低ラインと思うと、それ以上を目指さないと行けないのでしょうが。
>ひさん、 Nobuさん コメントをどうもありがとうござい
ポピー 2012/10/17(水) - 01:37>ひさん、 Nobuさん
コメントをどうもありがとうございます。
表を見ていると(特に最初の方)、「あ、これなら自分もできるかも」と思えてくるのが、大きなポイントのようですね。
ネット計算機とは、また違ったアピールがあるのが興味深いです。
「その時点での年収のX倍」というところがミソですね。収入が
F Fries 2012/10/17(水) - 12:42「その時点での年収のX倍」というところがミソですね。収入が増えるにつれて、ターゲットも高くなるわけですね。50歳で年収の4倍って、年収が100Kだとすると400Kになりますから、決して少ない額ではないです。それにこの数字、「すべての貯蓄の合計」とありますが、ホームエクイティなどを入れてもいいとは書いてないし。いやいや、こんなネガティブなことを言わずに、この目標を越えるように頑張ります。
「その時点での年収のX倍」というところがミソですね。収入が
F Fries 2012/10/17(水) - 12:42「その時点での年収のX倍」というところがミソですね。収入が増えるにつれて、ターゲットも高くなるわけですね。50歳で年収の4倍って、年収が100Kだとすると400Kになりますから、決して少ない額ではないです。それにこの数字、「すべての貯蓄の合計」とありますが、ホームエクイティなどを入れてもいいとは書いてないし。いやいや、こんなネガティブなことを言わずに、この目標を越えるように頑張ります。
わかりやすいです。 ってことは成長がゼロとしても、だいたい
Chee 2012/10/17(水) - 20:10わかりやすいです。
ってことは成長がゼロとしても、だいたい年収の20%を毎年投資にまわせれば、達成できるってことですよね。
とういうことは~、年収の20%キャッシュフローができるようにまずは頑張ろう。
ものすごーく単純に考えて、これは普通に貯金するとしたら、毎
Kay 2012/10/17(水) - 20:55ものすごーく単純に考えて、これは普通に貯金するとしたら、毎年年収の20%ってことですよね。アメリカ人に出来るのか20%の貯金? ううむー! ま、私は日本人だし、がんばります。 あ、Cheeさんと一緒のこと書いてた。
あはは。私、いつもKayさんのブログやコメント見て、タイプ
Chee 2012/10/17(水) - 21:05あはは。私、いつもKayさんのブログやコメント見て、タイプ似ているな~と思っています。笑
>F
ポピー 2012/10/17(水) - 22:54>F Friesさん
本当はNon-Linearな成長を無理やりLinearな成長に解釈している感じなので、35~50歳辺りの成長は実は結構難しいのかもしれませんね。
考えて見たら、8倍以上を目指す時は、成長経路はもっとNon-Linearになる可能性もあるのかな。
>Cheeさん、Kayさん、 本当だ!お二人とも同じ考え方
ポピー 2012/10/17(水) - 23:06>Cheeさん、Kayさん、
本当だ!お二人とも同じ考え方・反応。リターンより、元本で考える所が日本人的なのかな。
確かに、インフレ率ゼロ、昇給率ゼロ、投資リターンゼロの環境だったら、5年で年収分貯めようとすると、年20%貯めていかないとなりませんよね。
アメリカ人、特にミドルインカム層に20%の貯金はかなり難しそうです。Fidelityの12%拠出っていう例も、その辺の遠慮があるのかなって思うんですが。
このマイルストーン表、すごくいいですね!これを参考に頑張る
通りすがり 2012/10/18(木) - 00:03このマイルストーン表、すごくいいですね!これを参考に頑張ることにします(笑
>通りすがりさん 表を見てると、何となく「頑張ろう!」って
ポピー 2012/10/18(木) - 10:29>通りすがりさん
表を見てると、何となく「頑張ろう!」って思えてくるから不思議ですよね。
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